唇から視線が離せなくてずっと見ていればそれはいつの間にか重なっていました。


(TOV:フレユリ)


「……え? あれ?」

 唇にしっとりとした何か触れ、すぐに離れていく気配。気が付けば思いのほか近くに見慣れた彼の顔があり、もう一度「あれ?」と呟いて首を傾げる。その様子をくすくすと笑いながら見下ろしていた男は、つい先ほどまでキッチンに立って食事の後片付けをしていたはずで、いつの間にこんなにも近くまで来ていたのだろう。食器洗いは終わったのだろうか。
 ちらりと動いた視線に気づいた敏い彼は、「終わってたっつの、さっき」と苦笑を浮かべて口にする。どうやらそんなことにさえ気づかないほど呆けてしまっていたらしい。
 突然のキスは、そんなフレンの意識を現実に戻すための悪戯のつもりなのかもしれない。
 ごめん、と謝ってユーリから視線を逸らせてしまったのは、何に対して謝っているのか自分でもよく分かっていなかったということと、ぼんやりと眺めていたもの、頭の中で渦巻いていた思考がどうにも褒められたものではなかったからだ。

 恋人同士でもある彼と久しぶりに顔を合わせた。昼飯食うなら作るけど、という好意に素直に甘え、テーブルを囲んで向かい合う。せめて後片付けくらいは手伝う、と申し出たが、おとなしくしていろ、と断られた。立て込む仕事に少し疲れていることを悟られていたのだろう。
 相変わらず敏く優しい、と思いながら、片づけをするユーリの姿を目で追いかけてしまうのは、単純に足りないからだ。ユーリが足りない、だからこんなにも疲れてしまっている。側に彼がずっといてくれるのなら、きっと今よりももっとたくさん頑張れるのだろうけれど、とあり得ない未来を夢想するくらいには疲れてしまっている。
 そんなフレンを見やって何を思ったのか、ユーリは小さくため息をついた後「こっち見ろ」とフレンの頬へ手を添えた。素直に彼を見上げれば、座ったままのフレンを見下ろす紫黒の瞳が意味ありげに細められる。そうして口元を緩めたかと思えば、ん、と顎をしゃくられた。意味が取れず小さく首を傾げれば、尖った唇がちゅ、とリップ音を立てる。

「欲しかったんだろ?」

 これ、ともう一度柔らかなリップ音を立てられ、かぁと頬に血が集まった。今更照れる間柄でもないとは思うのだが、無意識の欲望を気づかれていた気恥ずかしさはどうしようもできない。赤くなって黙ってしまったフレンを、ユーリは変わらず優しげな目で見つめていた。普段の彼ならばからかいの言葉一つでも口にしそうなものだが、今日はどういう心づもりかとことんこちらを甘やかしてくれるらしい。

「お前のなんだし、好きにしていいぜ」

 僅かに傾げられた首、肩に乗っていた黒髪がさらりと零れ落ち、室内に入り込んでいた光にきらきらと輝いていた。
 ユーリ、と呼んだ名はほとんど音になっていなかったかもしれない。伸ばした手で彼の後頭部を捕らえ、引き寄せて唇を塞ぐ。まずは押しつけてその体温を感じ、満足したところで口内へ舌を伸ばした。
 そう、彼が指摘するとおり、これが欲しかった。食事を作ってくれているときから、食べている間、片づけをしているその時もずっと、ユーリの唇ばかり見ていたような気がする。薄いそれが赤く色づき、甘い吐息を零すようになるまで存分に貪りたい、そんな欲望に脳の半分以上が支配されていた。
 ユーリがそんな熱の籠もった視線に気がつかないはずがない。

「んっ、ふぁ、ぁ、ん……」

 がっついている、と自覚はあるが、与えられたものが魅力的すぎて自分の欲望に抗えない。口内をねっとりと舐めた後お互いに舌を絡めて吸い合う。下から唇を押しつけているため、溢れる唾液はフレンの口内に溜まり、零れて顎を伝い落ちた。
 こくりと喉を動かしながら、それでもユーリを貪ることをやめようとはしない。酸素が足りなくなれば舌を絡めることを止め、少しだけ顔を引いてユーリの上唇を含んで歯を立てる。休憩のつもりで齧ったそれは思った通りに甘く、今度はちゅうちゅうと吸いつくのを止められなくなった。
 さすがに痛みを覚えるのか、ユーリが眉間にしわを寄せて僅かに首を振る。仕方なく最後にひときわ強く吸い上げて顔を離せば、ぷっくりと膨らんだ唇が唾液に濡れて赤く光っている様子が目に入った。

「ぅ、んっ!? っ、ん、ふ、う、んんー……っ!」

 その様子が余りにも扇情的で、膨れ上がった衝動のまま再びユーリの唇を下から捕らえる。歯が当たりそうな勢いで塞ぎ、押し当てる強さとは裏腹に舌は優しく口内をくすぐった。ちろちろと舌先を突かれる刺激にユーリの眉間のしわはますます深くなる。もどかしさに焦れた舌がフレンへ向かって伸びてきたところをすかさず捕らえた。

「んぅぅっ!」

 そのままずるずると吸い上げれば、くぐもった悲鳴がユーリの喉から上がる。抱き寄せた腰がひくり、と跳ねたのが伝わってきて、体温が一気に上昇した。おそらくもう止められないだろう。どこか他人事のように思いながら、柔らかなユーリの舌を歯で捕らえて二、三度扱いた後ゆっくりと唇を離した。

「あ、はっ、ぁ……」

 目を閉じたままのユーリは覚束ない声を零しながら、ずるずるとその場に崩れ落ちる。ぺったりと床に座り込んだ彼が頬を乗せるのは、イスに腰掛けたままのフレンの太股で、はふはふと熱の籠った吐息を布越しに感じた。たまらずに名を呼び、その頭をぐ、と引き寄せる。
 眼前に突き出したものは、キスをし始めた頃から熱と硬さを増していた欲望に直結した器官。
 雰囲気に酔っているのか、キスに酔っているのか。とろりとした表情のまま、ユーリは素直にフレンの衣服の前合わせへ指をかける。かちゃかちゃと金属の鳴る音、ジッパーを引き下げる音、布の擦れ合う音がした後にずるり、と引きずりだされた熱。
 そっとそれを両手で包み込み、甘く真っ赤に熟れた唇がゆっくりとその先端に押し当てられた。




ブラウザバックでお戻りください。
2012.03.26
















咥えてないのでギリギリ表だろう、という判断を。

リクエスト、ありがとうございました!