恋に恋する時期は終わり、二人して恋に振り回される時期がやってきました。 (TOV:フレユリ) 恋に恋する時期は終わり、二人して恋に振り回される時期がやってきました。 主に他人の恋に。 「……男同士で不毛だなんだとは言わねぇけど、頼むから余所でやってくれ」 仕事を終えて自室に戻れば、ほぼ公認不法侵入者がひとのベッドの上でふて腐れていた。どうしたの、と聞けば逆に仕事は、と尋ね返される。 「今日はもう全部終わってるけど……」 というのは少し嘘だ、寝るまでに少し目を通しておこうかと書類を持ち帰っていた。けれど、資料的なものであり絶対に必要な作業ではない。今はそれよりも優先すべきことがあるようで、来い来い、と手招きされるままベッドへ近づけば、伸びてきた腕が腰に巻きついた。 「鎧が痛ぇ」 「だろうね」 文句を言われたため一度離れ、城内であろうと任務中はほとんど外すことのない簡易の鎧を脱ぐ。ついでに簡単に着替えてベッドへ腰かけ両手を広げた。フレンの用意が整うまで大人しく待っていた男は、無言のままぽふり、と倒れ込んでくる。 「カロルたちのとこ?」 ぐりぐりと押し付けられる頭を撫でながら言えば、そう、と返ってきた。現在彼が所属するギルドの小さな首領は、押しの一手で一回り以上年の離れた同性と晴れて恋人関係となっている。射とめられた中年の男は、始めは少年からの猛烈なアタックから逃げ回っていたようだが、今ではむしろ彼の方が入れ込んでいるのではないかと思うほど仲の良い恋人同士だと認識していたけれど。 「ちょっと前までは胸やけしそうなくらいべたべたしてたのに、なんなんだ、あいつら」 どうやら気の毒なことに、そのカップルの痴話喧嘩に巻き込まれてしまったらしい。タイミング悪く喧嘩勃発と同時にレイヴンの方が帝都での仕事があり、そのまま冷戦期間に突入。しかし事前に聞いていた期間が過ぎても戻ってこず、「もう別れるつもりなんだ!」と大泣きする首領を引きずってザーフィアスまでやってきたのだとか。実際にはただ仕事が忙しすぎて戻ることができず、こちらはこちらでひとり腐っている中年がいたらしい。面倒くせぇからもうおっさんのとこにカロル、放り込んできた、と顔を上げずにユーリは言う。 「付き合い始めのひとたちって大抵そんな感じなんじゃないかな」 相当疲労しているらしい恋人の髪を緩く梳きながら言えば、ずるずると身体を沈め、フレンの脚を枕に寝転んだ彼が「そういうもんか?」と眉を顰めた。 「聞きかじりとか、本で読んだ知識だけど。ほら『恋に恋する』って」 恋に酔った状態がそう長く続くわけもなく、時間を経て少し冷静になったところでお互いのことが今までよりはっきり見えてくるのだろう。その結果の喧嘩、なのかもしれないけれど。 「……いや、あいつらの場合ただの痴話喧嘩だ」 顔を合わせてきちんと話せば結局互いのことを想いあっているのだから、痴話喧嘩以外の何物でもない。まあ喧嘩できるようになっただけでも進歩してんのかもな、とユーリはぽつり呟いた。互いの本音をぶつけ合うからこそそこに諍いが生まれるのだ、遠慮したままで喧嘩さえまともにできないようなふたりが上手くやっていけるとは思えない。 「その点で言えば僕らは問題ないよね」 むしろ喧嘩ばっかりしてるし、と笑いながら言った恋人を見上げ、「別に喧嘩しかしてないわけじゃねぇだろ」と唇を尖らせる。むに、とその唇を指で押さえれば、逆に齧られてしまった。 「まあそうだけど。今も昔も、僕はずっとユーリに振り回されてるとは思うよ」 「聞き捨てならねぇな、オレがいつお前振り回したっつーんだよ」 「だってユーリ、モテるから」 自由を好む彼の生き方に振り回されている気もするが、それを含めたユーリという存在が好きなのだからそこについては目を瞑る。けれど、男女問わず秋波を集めてしまうことについては、さすがに恋人として面白くはない。 ああそういう意味で、と納得したように頷いたユーリは、「だったらお前の方がひでぇだろ」と伸ばした手でフレンの頬に触れながら言った。 「そう思ってくれるんだ?」 それはつまり、嫉妬をしてくれているということ。笑ってユーリの顔を覗きこめば、手を引いた彼はふい、と顔を背けて「まぁな」と答える。普段の彼はあまり嫉妬めいた心を見せることがなく、若干の寂しさを覚えていた。珍しい言葉が聞けたなぁ、とほくほくしていれば、ぽそり、と続けられた言葉に髪を撫でていた手が思わず止まる。 「お前が女と話してるの見たら狂いそうになる程度には」 嫉妬に振り回されている、とそういう彼にこそ、フレンは振り回されているのだ、と伝えるためには何をしたらいいだろうか。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.05.25
甘えてるユーリさんを書きたかった。 リクエスト、ありがとうございました! |