サイは投げられた!42号 DQ8 クク主 74P R-18 文章のみ 収録「竜の恩返し」 エンディング後。トロデ王からの依頼で怪しいカジノへ潜入調査を試みる話。 ククールさんに特殊過去ある設定。 当社比的にエイトさんがとても頑張っている感じです。 以下本文抜粋。 基本的に日常生活における応用力に乏しいエイトではあるが、『設定』を与えてやればそれなりに演じることはできる。むしろそのほうが彼にとっては気が楽なのだそうだ。自分自身がどう思うか、どう感じるかを言語化するより、こういう設定の人物だからこう考える、と機械的に答えをはじき出したいらしい。誰かひとりをモデルとするのではなく、かつて出会った人々からそれらしき要素を集めてひとりの人物を形成するのだ。 もともと金を持っているという設定であるため、多少の負けには動じない。生まれ持った環境のせいで苦労を知らず、だからこそ何かに必死になることもない。カジノでの勝敗を気にしないのなら、性格はのんびり、おっとりというより、むしろ無頓着、無関心。甘やかされて育ってきたため、成人しているわりに子どもっぽい面がある。代わり映えのない日々に飽きており、何か面白いことがないかと望んでいるわりに自分から動くことはない、他力本願な人間。 「……大丈夫、俺はできる。俺は女優だ。ガラスの仮面を被るんだ……!」 鏡を前にそう呟いて己を鼓舞している男へ、「逆立ちしてもお前は女優にゃなれねぇよ」と僧侶が的確なツッコミを放っていた。性別的な意味で不可能な話である。 「わがままな彼女ねぇ。ベルガラックのユッケとかをイメージすればいいのかしら」 首を傾げているゼシカへ、「ゼシカの姉ちゃんはそのままでいいんじゃねぇでがすか」とヤンガスがにやにや笑いながら言い、「どういう意味よ」と睨まれていた。 そういうヤンガスこそそのままの役どころであるため、とくに深い設定は作らない。彼の場合はできるだけくちを開かない、という点だけ注意すればいいだろう。カジノ内で「エイトの兄貴」と呼ばれてしまっては、せっかく作り上げた放蕩息子とその一行像が崩れかねない。 「ククールは従僕? じゅうぼくってなに?」 「ただの使用人だ。お前のわがままに振り回されてるって点はいつもどおりだな」 「……じゃあ俺はわがまま言ってお前を困らせたらいいわけだな?」 真顔でそう言った男の額へ、「そういう意味じゃねぇよ」とククールはデコピンを噛ましておいた。 カジノで遊ぶ資金に関しては自分たちで用意する。トロデ王の依頼であるため、国庫から多少捻出すると言われたが、道中魔物を狩っていけばそこそこの稼ぎになる計算であったため辞退したのだ。こうした金策に関してもかつての旅では日常的なことであり、四人が苦に思うことはない。多少鈍っていた勘を取り戻すための肩慣らし代わりだ。打倒暗黒神という壮大な目的がない分、いい意味でちからを抜いて取り組める任務ではある。 そうして貯めた金を抱え乗り込んだカジノは、確かに立派な施設であった。建物のグレードでいえば確実にベルガラックより上だろう。周辺のホテルやレストラン、そのほかの遊技場の充実具合から見ても、大きなリゾート地となっていることは間違いない。 「……っつっても、景品自体にめぼしいものはなさそうだな」 小さくそう呟いた『放蕩息子』へ、「しょうがないんじゃないかしらね」と腕を組んで歩いている『恋人』が苦笑を浮かべて言う。 「私たち、世界中を飛び回ってたんだもの。大抵の『珍しいもの』はもう見ちゃってるわ」 そして必要なものは大方自力で手に入れてしまったあとなのだ。今さら人類の手で用意できる程度のアイテムが欲しいと思うような四人ではない。 「『太陽のかんむり』とか『げんませき』とかが並んでたら本気になったのに」 「それはオレもガチになる」 どちらのアイテムも手に入れてはいるのだが、現時点で自分たちが持っているもの以外のものを目にしたことがない。どうしても必要ではないが、レア度が高いため欲しいと思ってしまうのも仕方がないだろう。 逆にいえばそのレベルのものでなければ、四人が目の色を変えることはない。その点ではトロデ王の人選は最適だったといえよう。 「とりあえず、普通に遊んでる感じでいいんだな?」 小声で確認を取るエイトへ、「無理に勝つ必要も負ける必要もないからな」と同じく小さな声でククールが答える。最初から派手な動きはせず、まずは役に沿った行動をしつつカジノ内での情報収集を行う。あくまでもただの客を装うのだ。 いろいろと話を聞きたいため、スロットのような機械が相手のゲームではなく、ルーレットやポーカーといった多くのひとが集まるテーブルを選んで遊ぶ。その都度隣の人物に挨拶ついでに声をかけ、世間話をし、私もちょっと遊んでくるわ、と護衛を連れて離れていく恋人を見送って、従僕に喉が渇いたとわがままを言って使いっ走りをさせた。 「なんか小腹が空いたなぁ。ちょっとつまめるものとかないの?」 バーカウンタから持ってきたカクテルにくちをつけつつそう言った青年へ、表情を動かすことなく「かしこまりました」と顔の整った従僕が頭を下げて再びそばを離れる。飲み物を頼んだときに一緒に軽食も頼めば二度手間にならずにすむのになあ、と思いはするものの、頻繁にひとりでふらふらできる機会を与える手段であるため仕方がない。主人にこき使われている召使いという仮面を作れば、ククールのほうも動きやすいだろう。 実際、ちょくちょくとバーカウンタに顔を出す美形はすぐスタッフ間で話題になり、カジノ内を歩き回っていろいろな話を聞いているだろうバニーガールたちに近づきやすくなった。整った顔と巧みな話術を駆使すれば、短い会話だけでもそれなりの情報が手に入る。 ゼシカのほうは、こちらから話しかけずとも勝手に声をかけてくる男があとをたたない。彼らをすげなく追い払いながらも、このカジノの評判、どれくらいの客入りであるのか、後ろ暗い噂を聞いたことがないか、など、事前に決めていた調査項目を一つ一つ尋ね、解答を集めていった。 もちろん一日二日でできるようなことではない。トロデ王からは一月ほど期間をもらっているため、休息日や、資金調達日をもうけつつ、それでも頻繁にカジノに出入りしての調査である。常連になればそれだけ顔も広がり、情報も入り込みやすくなってくる。親しい間柄でしか話題にしないこと、ほんの些細な世間話、それらが実際に役に立つ情報なのかどうかはあとで精査すればいい。とにかく聞けるだけ話を聞いて、人脈を築き上げていった。 「ハァイ、ククール。今日もわがままボーイの子守り?」 「やあ、ルナ。仕事だからな、我慢するさ。それより今日は一段ときれいだね。髪の巻き方、変えた?」 肩を竦めて答えた男は、銀の盆をもったバニーの柔らかな金髪を軽く撫でてそう指摘する。ぱっと表情を明るくした彼女は、「やだ、分かる? 嬉しい!」と笑って言った。 「リップも一昨日とは違う色じゃない? ちょっとピンクっぽいかな。かわいくていいね、思わずキスしたくなる」 最後の台詞は彼女にしか聞こえないよう、軽く顔を寄せて耳元で囁いてやる。バニーガールとして給仕しているくらいであるため、彼女たちは皆それなりに整った容姿とスタイルをしており、男たちから口説かれることも日常茶飯事であるだろう。それでもやはり、美形からの甘い言葉は嬉しいらしい。「やだ、もう」と耳とほおを赤く染めるルナは、どちらかといえば純粋なタイプらしい。昨日同じように会話をしたオリヴィアは、「あら、キスしてくれていいのよ」としなだれかかってきた。キスだけで終わらない自信があるから、とその場を乗り切ったが、人気のない場所にでも連れ込んで味見くらいしても良かったかな、とは思っている。ククールがバニーガールに声をかけるようになって以降、彼女たちのメイクの質がぐっと上がったらしい、という噂を聞いた。 そうしてせっせと声をかけ、話をするなかで、失踪した客を知っているというバニーに出会うことができた。トロデーン国諜報部が掴んだ失踪客のうち、夫婦でいなくなったふたりの夫のほうである。彼らがどういった人物であるのか、人相なども含めてかなり詳細に調べてあり、その情報を頭にたたき込んでいたことが幸いした。該当のバニーとも話をして擦り合わせたが、彼女たちの知る客は間違いなく行方の分からない夫のほうであろう。 ブラウザバックでお戻りください。 |