君専用


 伸ばした手を振り払う、その行為がどれだけ相手を傷つけるのか。
 彼はおそらく分かっていない。
 もともと想像力が大幅に欠如した彼のこと、振り払われた相手になって考えることができないのだろう。振り払ったと、そういう意識さえないかもしれない。
 確かに彼の身にかけられた呪いや、その生まれや流れている混血は彼自身の問題で、所詮他人でしかないククールがとやかくいうのは筋が違うのかも知れない。しかしそれでも黙っていられないのが人間というものだ。ましてやククールはエイトに対し好意を抱いている。これで手を差し伸べるなと、その方が無理だろう。

 しかし咄嗟に差し伸べた手は思いも寄らぬほど強く、拒絶された。

 誰にも頼らぬ、一人で歩く。
 彼自身がそう明言したことはないが、それでも全てを拒むかのようなその背中が口以上に雄弁に彼の心情を物語っていた。

 昔の自分なら一度拒絶されればもう二度と関わりを持とうと思わなかっただろう。しかしククールにとっては好都合なことに(エイトにとっては不幸なことに、かもしれない)、この旅でククールも成長をしている。


 こっちは小さい頃から手を振り払われ続けてきたんだ、今さら一度や二度拒絶されたくらいで。


 どれほどの時間が経とうが、おそらく世界は変わらない。腐った権力争いや、金と欲にまみれた人間がなくなるわけではない。
 どれほどの時間が経とうが、おそらく彼は変わらない。差し伸べた手をどう受け入れて良いのか、分からないままだろう。

 ただそれでも。

 ぎゅう、と己の拳を握り締めて、ククールは思う。


 いつ呼ばれても良いように、この手は必ずあけておこう。
 いつでも彼へ手が差し伸べられるように。



「このククールさまが助けに行ってやるんだ、後悔はさせねぇぞ?」



 突然ククールにそう告げられ、意味が分からなかったエイトは「はぁ?」と眉を寄せて首を傾げるが、そんな彼の反応さえもうどうでも良い。
 たった今己の中で固めたその決意が他の何ものにも替えがたいほどの素晴らしいアイディアであるように思え、ククールは酷く上機嫌であった。



 お前が良けりゃ、いつでも呼んでくれ。
 大したことはできないだろうけどこの左手は、
 お前のためにあけといてやるから。




ブラウザバックでお戻りください。
2005.06.22








「左手だけか?」
「……身体ごとあけといてやる」