力弱い拒絶 そもそも、とエイトは思う。 自分にはもともと何もなかった。 何も持っていなかった。 人として持っているはずのもの、故郷とか両親とか。 過去さえ途中までしかなく、これで卑屈になるなというほうがまず無理だ。 所詮自分など、と。 おそらく怖かったのだ。 他人にその事実を突きつけられるのが。 だから初めから自分でそう思い込んでおく。 その方が誰かに言われたときの傷は浅いはずで。 逃げよう、とそう思った。 駄目なのだ、彼の腕が、声が、背中がそこにあると。 どうしても縋ってしまう。 もしかしたら、と考えてしまう。 それでは駄目なのだ。 自分など、すぐにでも捨てることのできる程度の存在であらねばならぬ。 所詮自分などその程度の存在であらねばならぬのだ。 こんな卑屈な人間が、彼に答える言葉を持っているはずがない。 だから逃げる。 背を向けて、振り切って。 彼の腕の届かぬところへ。 彼の声の聞こえぬところへ。 彼の背中が見えぬところへ。 けれどすぐに気が付いた。 逃げても無駄だ、彼は何処までも追いかけてくる。 エイトが好きなあの青い目を真っ直ぐにこちらへ向けて。 逃げることを許してはくれないだろう。 頼むから。 卑屈な想いの裏側に隠された本音を暴かないでほしい。 優しい言葉をかけられると、 眩暈、が、 ブラウザバックでお戻りください。 2006.06.13
これぞ散文。 歌詞の中に「眩暈」という言葉がなかったので、使ってみたかった。 |