旅行日和 天気がいい。何処までも底抜けに天気がいい。 未だに克服できず空を仰ぐことは無理だったが、それでも窓から差し込む日差しだけで真っ青な空が広がっていることは想像に難くない。 静かな部屋に静かに差し込む幾筋もの光の帯。 あまりに温かなそれを一身に浴び、おもわず目蓋が落ちてくる。 「……模様替え、しようかな」 この位置に机を置いたのは間違いだったかもしれない。天気がいい日にデスクワークなどしようものなら、そのまま昼寝に突入しそうだ。かといって兵士の詰め所でできる仕事でもない。(しようと思えばできるのだろうが、人がいる場所だと無駄話にばかり花が咲き仕事にならない。) 「報告書っつーか、兵士長も俺にこういうことさせるの、間違ってるよなぁ」 彼の頭の出来が余りよくないことは、おそらくトロデーンの兵士なら誰もが知っているだろう。それでも何故か上司は仕事を申し付けてくる。仕方がない、それが上司の仕事なのだろう。 暗黒神と呼ばれていた脅威が消え去り、世界に平和と青空が戻る。 その後に待っていたのは今までと変わりのない日常。 トロデーンの兵士として陛下に仕え、姫殿下に仕え、国を守る。日々の訓練を怠らず、ときには戦略を練るための知識を詰め込む。諸外国の動向に目を光らせ、偵察をし、特に問題ありません、と報告する毎日。 退屈、などといったら罰が当たるだろう。 本当に変わり映えのない毎日。 変わったことといえば、遊び友達が増えたことくらいで。 「……そうだ!」 書きかけの報告書を机の脇に寄せ、ついこの間手に入れた旅雑誌を取る。世界が平和になった今だからこそ、誰もが旅行を楽しむことができる。そんな旅行者へ向けた、観光地を紹介する本。 パラパラとめくると、聖地ゴルドや石像の町リブルアーチなど、有名どころがずらりと並んでいる。 「行ったことあるとこばっかり」 それもそうだろう、あの旅の間に彼らが赴かなかった場所はほとんどないに等しい。それでも彼はどこか楽しそうにページをめくり、地名も確かめずに綺麗な挿絵のあるページの右上を折る。いくつか折りこんだところで満足したのか、ぱたんと本を閉じて途中まで書いてある報告書を手繰り寄せた。 これが終わったら休暇を貰って旅行にでも行こう。 どこかでふらふらしているらしいあいつを道連れに。 前とは違う、観光だけが目的の旅行に行こう。 「怒るかな。怒るだろうなぁ」 「どうしてお前はいつもそう、突然な上に無計画なんだ!」と綺麗な眉を吊り上げて怒る彼の姿を想像し、思わず笑みがこぼれる にたにたと気味の悪い笑顔のまま、エイトはただひたすら報告書へペンを走らせた。 明日晴れたら、旅行に行こう。 無理やりにでもあいつを道連れにして。 鼻歌でも歌いながら、気の赴くままに。 適当に折った旅雑誌があるから大丈夫。 もしかしたら、今までに見たことのない土地へ行けるかも知れない。 ブラウザバックでお戻りください。 2006.06.20
エンディング後、トロデーンで兵士をしているという設定で。 |