愛ある限り


 人の一生など、長いようで短くまた短いようでとても長い。ようはその人の考え方次第なのだと、そう思う。

 ただそれでもどうやら自分は人間ではなかったらしく、人よりは長い時を生きなければならないらしい。それは嫌だな、とその話を聞いたときに思った。どうせなら共に戦った仲間たちのように、どこまでも自分を慕ってくれた心優しい彼や、いつも自分を心配してくれた真っ直ぐな彼女や、こんな自分を愛してくれた彼のように、老いて死にたいとそう思った。彼らのいない時を生きなければならないなど冗談じゃない、と。
 分かっている、それが何処までも自分勝手な願いであることなど。

 だから一人で旅をするつもりだった。竜の血を封印する方法を探す旅。あるのかないのか分からない、けれど探そうとしなければ見つかることはないだろう。今までずっと五人と一匹で旅をしてきていたから、急に一人で旅をするのは寂しいかもしれない。それでも今までよりは少し自由に町を行き来できる。会いたくなれば会いに行けばいい。居場所が分からなければ探せばいい。自分には時間だけはある。それくらい寄り道をしたところで痛くも痒くもないだろう。
 そう、思っていた。

「それが、どうしてこんなことになってるんだ」

 エイトのその呟きは広がった空間に空しくも飲み込まれていく。
 その彼の前で、いつかと同じような顔ぶれが笑顔を浮かべていた。

「そんな! 兄貴、水臭いでげす!」
 兄貴の行くところどこでもお供するって言ったでしょう。

 胸を張ってそう言うのはパルミドの町から駆けつけたヤンガス。

「やっぱり村にいても退屈なのよねぇ」
 お母さんがあまりにもうるさいからまた家出してきちゃった。

 舌を出してそう言うのはリーザス村からきたゼシカ。

「そろそろベルガラックでイカサマが通じなくなってきてさ」
 あと、オレだけ仲間外れってのもなんか癪だし。

 肩を竦めてそう言うのはベルガラックにいたククール。

 トロデーン城を出るということは彼らにはまったく伝えていない。その理由をトロデ王に話し、理解してもらっただけだ。
 それなのになぜ彼らがタイミングよくこう集まって現れたのか。
 どうやら王にいっぱい食わされたらしい。玉座の間を辞するときに彼が見せた、悪戯っぽい笑顔を思い出しエイトは再び溜め息をついた。

「前とは違って、俺はすごい個人的な理由で旅をしてんだよ」
 それに他人を巻き込むつもりはない。

 しかし、どれだけそう言ったところでかつての仲間たちが引き下がるはずもなく。

「別に巻き込まれたつもりはないんだけど」
「兄貴とアッシは他人じゃないでがす」
「オレたちが来て嬉しいくせに、また意地張っちゃって」

 そう反論してくる彼らに、もう何を言っても無駄であることにようやく気が付いた。

「ああ、もういい、勝手にしろ。俺はもう知らん。どうなっても知らん」

 そう言い捨てたエイトは、東へ向かって伸びる街道をゆっくりと歩き始めた。
 仲間たちも当然のようにそのあとを追う。

「エイト、それはちょっと投げやりすぎるだろ」
「ヤリを投げさせてるのはどこの誰だと思ってんだよ」
「あんた元々ヤリが武器じゃない」
「そういう意味じゃねえって、ゼシカ」
「あ、兄貴、メタルキングが前方に」
「何!? ヤンガス、逃がすな! 回りこめ、ってお前じゃスピードが足らん、ククール!」
「ほいきた」
「メラゾーマ、効くかしら」
「効かねぇって! わざと言ってるだろ」
「うわっ、逃げられた!」
「お前、何やってんだよ、役に立たねぇカリスマだな」
「なっ! 人がせっかく走ってやったのに、攻撃しなかったのは誰だよ!」
「ゼシカ」
「何で私のせいにするの!?」
「……兄貴、もう一匹あそこの影に……ってどうせ聞いてないでがすね」

 会話はいつも通り。
 結局、あの頃とまったく変わらぬまま。
 まず何処に向かおうか、と地図を手に楽しそうに話しているゼシカとヤンガスを前に、ああもう、とエイトは大きくため息をついた。自分のわがままに付き合わせる気は全くない、彼らには彼らの人生がある。それを自分のために浪費させるなど、あってはならぬこと。
 そうは思うがそれでも今のこの状態を、心の底から喜んでいる自分がいるのも事実で。
 もう一度大きくため息をついたエイトの頭へ、大きな手がぽん、と置かれる。

「オレたちはお前が好きだから。好きなやつのために咲いて散る一生ってのがあってもいいだろ?」

 だからさっさと諦めろ、とそう言った彼の笑顔が、本物の花のように綺麗で。


 人の一生など短いようで長く、また長いようでとても短い。
 それはもしかしたら人でなくとも、そうなのかもしれない。
 ようは生きるその人の考え方次第なのだと。


「一生付き合ってくれるのか。俺ってば愛されてんなぁ」
「そうそう。愛してんの。だから諦めろ」


 彼らがいる限り、いや彼らが側にいなくとも彼らと共に歩いたという事実がある限り、歩いていけるかもしれない。
 いつか散ることを夢見る花に、なれるかもしれない。
 そう、思った。




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2006.06.13








お題の「その後の話」で没にしたものをちょっとだけ再利用。
「愛ある限り戦いましょう、命燃え尽きるまで」って誰の台詞だったかなぁ。