不変の想い


 人類を救うなどという大それたことを謳ったつもりはないが、結果的にそうなってしまったあの戦いを終え、既にもう何年も経っていた。人々の記憶から赤く染まった空の脅威は薄れ、崩壊した聖地ゴルドも復興が進んでいる。もうあのような終末が訪れかけていたことなど、微塵も感じることができない。
 この世界を守ったのがあんな小さな背中を持つ男だったなど、誰も信じないだろう。彼にどれだけ重いものが圧し掛かっていたのか、誰も知らないだろう。
 それでいい、と軽く目を伏せて思う。
 おそらく彼が守りたかったのはこういう世界だ。
 人々が以前と変わらぬ幸せを手にすることができる平凡な世界。
 彼が愛したのはこういう世界なのだ。
 しかし、どれほど彼が愛そうとも世界が彼を愛することはない。人と竜の子の間に生まれた彼は異端児だ。

 何処までも孤独で、何処までも強い彼に手を差し伸べることがどれほど傲慢で自分勝手な行為か、考えなかったわけではない。そもそも彼には必要ないのではないだろうか、邪魔なだけではないだろうか。不安も尽きない。
 彼の苦しむ姿を見ていたくなかった。
 彼の悲しむ姿を見ていたくなかった。
 ただそれだけ。
 それだけだったが、彼を愛するには十分だった。


 ふわり、と近くに感じる転移魔法の波動。
 懐かしく、温かいその魔力。
 魔方陣の向こう側から姿を現した彼は、相変わらず鮮やかな色を纏ったままで。

 笑みが浮かぶのを止められない。



 どれだけ時が経とうとも、彼への想いは変わることがないだろう。側にある、ただそれだけでいい。それ以上は望まない。夢なら夢でいいのだ、もう目覚める気はないのだから。永遠などという陳腐な言葉に頼る気はなかったがそれでもこの想いが変わることはないだろう。
 彼が、果てるその日まで。


「久しぶりだな、ククール」


 愛し続けることを、誓おう。




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2006.06.13








愛だって。