ひみつのてちょう


 エイトにはずっと気になっていることがあった。
 基本的に王や姫以外の他人には無関心である彼だが、それでも共に旅をする仲間たちのことは気になるし、気にするように心がけている。
 そうした努力の結果ではあるのだが、気になって気になって仕方がなくなってきた今、それを確かめようと、エイトは意を決して行動を起こした。

「なあ、ククール。その手帳、一体何を書き込んでんだ?」

 マイエラ修道院で仲間になった不良僧侶。始めの頃、彼はこちらに興味がなかったらしくどれだけ話し掛けても冷たい言葉しか返ってこなかったが、このごろはようやく打ち解けてきたようで、軽い冗談も言い合える仲になっていた。互いに踏み込んだ関係になれば、なかなか居心地がいい相手かもしれない、とエイトは思う。

 しかしそんな彼は昼食時や宿で休んでいるときなど、時間があるときにふと思い出したように懐から手帳を取り出しては何かを書き込んでいるのである。
 一体何が書いてあるのか、気になってはいたがなかなか聞けず、今日まで悶々と過ごしていた。
 悩み続けるのもバカらしくなってきたため、単刀直入に聞いてみたわけである。

「秘密」

 しかしククールの返答はその三文字だけで、エイトが手帳を覗き込もうとするとパタリとそれを閉じて懐にしまってしまうのだ。
 それに対し不満を表すように頬を膨らませるが、ククールは笑って取り合わなかった。


 これを機に、エイトは何度も同じ質問をし、同じようにそれを覗き込もうとするのだが、やはりククールも同じように答えて、同じようにそれをエイとの目から遠ざけるのである。
 そんなことを何度も繰り返されては、何が何でもその中身を覗いてやろう、という気になるもので。
 エイトはそんな闘志を胸に秘めたまま、チャンスを伺っていた。



 人々が寝静まった宿屋の一室。暗闇の中ぼそぼそとした声が響く。

「あ、兄貴ぃ、止めときやしょうよー。プライバシーは尊重するでがす」

 情けなくそう言ってヤンガスはエイトの袖を引くが、それくらいで彼が止めるはずもない。「大丈夫だって、絶対ばれないから」とエイトは強くそう言い切る。
 彼らの前には窓際のベッドでぐっすりと眠っている(ように見える)ククールの姿。

「でも、その手帳、枕の下にあるんでがしょう? そこから抜き取ったら、いくらよく寝てても普通起きやすよ」

 心配そうなヤンガスへにやりと笑みを浮かべて、エイトは自分の荷物から一本の剣を抜き出した。

「ちゃらら、らっちゃらーん。まどろみのけんー」

 小声でそう囁いたエイトへ、「何でがすか、その効果音は」とヤンガスが突っ込みを入れた。いつもならゼシカやククールがすることなのだが、ここにいて意識があるものはヤンガスしかいない。

「うーふーふー、ぼーくードーラーえ」

 途中で賢明にもヤンガスはエイトの口を両手でふさいだ。

「兄貴、それ以上は言わねえでくだせえ。ってか、言っちゃ駄目でがす」

 そう言うヤンガスへ「何で? 似てなかった?」とエイトは首を傾げた。

「い、いや、似てやした。すっげぇ似てやしたけど!」
 でも駄目でがす。

 そう言い募るヤンガスへ不服そうながらも「分かったよ」とエイトは頷いた。

「で、この剣でラリホー重ねてかければ、いくらククールでも起きないと思わね?」

 俺ってあったまいー、と笑って言うエイトをヤンガスが止められるはずもなく。
 それ以上は生死に関わるんじゃないのか、というくらいにまどろみの剣でラリホーを重ねてかけ、頬をつねっても起きないことを確認したのち、エイトは枕の下へ手を突っ込んだ。


「さてさて、ククールさんは一体どんな秘密を抱えていらっしゃるのかな?」


 楽しそうに、本当に楽しそうに笑いながら、エイトはその手帳をめくり、そこに書いてある文字を追った。




『○△&▽■×、××○▼……#$!^★?><+☆%&∩∧∨。
 ▲◎^★◇?>、>>#%∨☆%∧∨。』


 無言のままペラリとページをめくる。


『♀℃¥◆◆〒$÷≠、↓↓⊃*#▼■§§★。
 ∴∞∞□⊇⊇&£……♀¥$▽■%□¢……』


 無言のままペラリともう一枚ページをめくった。


『♂☆◎●↑、#≠+×%○◆△※※=±、
 ><+☆%&#≠℃¥◆℃¥◆。』


 ペラリ。


『★★★☆☆! ☆☆★★★★☆☆!
 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★!!!!』




 エイトは静かに手帳を閉じて、それをもとの場所に戻す。ククールは眠ったままで起きる気配はない。
 言葉を発する気力もないらしいヤンガスは、黙ったままエイトに頭を下げて自分の部屋へと戻っていった。
 そんなヤンガスを見送ってから壁際にある自分のベッドへともぐりこんだエイトは、天井に向かってぼそりと、

「四ページ目はものすごい嬉しいことがあったんだろうなぁ」

 と呟いた。



 翌日、何故か眠たそうなヤンガスとエイトをゼシカが不思議そうな顔で見ている。ククールにも彼らが寝不足であるその理由が分からず首を傾げていると、赤い目をしたエイトがこちらにやってきた。
 そして彼の肩をたたくと、どこか同情のこもった目をして、

「宇宙との交信は程ほどにしとけよ」

 とだけ言って去って行く。

 しばらくはその意味がつかめず、ぽかんと彼の背中を見ていたククールだが、ふとその理由に思い当たって笑みを浮かべた。
 そしてエイトがこちらを見ていないことを確認してから、懐から手帳を取り出す。

「オレさまを出し抜こうなんざ、甘いんだよ、エイトくん」

 彼の手の中には同じデザインの手帳が二つ。
 くつくつと笑いながら再びそれを懐にしまって、さてエイトが真相に気付くのはいつだろうか、と考えながら彼らの後を追いかけた。





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2005.01.24








………………くだらねー。
まどろみの剣って戦闘中に使えましたっけ? 使ったことないから分かんね。