4.人間関係 「ヒエラルキー」


 アスカンタからパルミドへ向かう道のり。山道を歩いていたところで、突然魔物の群に出くわした。まだそれほどアスカンタから離れていたわけでもなく、体力的に問題もなかったので逃げずに丁寧に相手をする。
 くるっと回って、服のすそを広げながら剣を繰り出すエイト、その隣で斧を高く振り上げるヤンガス。ゼシカは鞭を構えて一番体力のない魔物の相手をし、ククールは仲間に怪我人がいないことを確認してから弓を構える。いつもの戦闘風景であるが、突然響いたミーティアの鳴き声によりその日常があっさりと崩れ落ちた。

 慌ててエイトが振り返ると、群から離れた魔物のうちの一匹がトロデ王とミーティア姫へと向かっている姿が目に飛び込んでくる。

「姫っ!」

 叫んで、エイトはそちらへ向かって走り出す。王と姫を守る近衛兵ならば当然の行動だ。
 このときの彼の頭の中からは、今まで対峙していた魔物の存在はすっかり抜け落ちてしまっていた。

「兄貴、危ないっ!」

 魔物に背を向けて走り出したエイトを見て、ヤンガスが声をあげる。
 完全に無防備なエイトへ魔物が攻撃を繰り出そうとしていたのである。
 とにかくエイトを守らなければ、とヤンガスは斧を振り上げてその魔物へ向かって行った。
 エイト同様、このときの彼の頭の中からは、今まで対峙していた魔物の存在はすっかり抜け落ちてしまっている。

「ヤンガス、前っ!」

 そんな彼の姿を見て、今度はゼシカが叫んだ。
 しかし彼女の声がヤンガスに届いている様子はなく、彼は今己が慕う人間を守るのに必死だ。「ああ、もう!」と小さく文句を吐き出して、ゼシカは呪文の詠唱に入った。勿論、ヤンガスへ牙をむくその魔物を遠ざけるために、である。
 エイトとヤンガス同様、このときの彼女の頭の中からは以下省略。

「って、おいおいおいゼシカ、お前こそっ!」

 完全に横を向いて別の魔物へメラミを繰り出そうとしているゼシカを見て、ククールが慌てた声をあげた。
 ちっと舌打ちをして、構えていた弓を彼女へ爪を振り上げた魔物へ向ける。レディが危険に晒されているのを見過ごすわけにはいかない。
 エイト、ヤンガス、ゼシカ同様、このときの以下省略。


 結果、エイトは無事ミーティア姫へ害を成そうとした魔物を切り捨て、ヤンガスはエイトの背へ攻撃を繰り出そうとしていた魔物の頭へ斧を振り下ろし、ゼシカはヤンガスへ向かっていた魔物へメラミを打ち込み、ククールはゼシカを狙っていた魔物の喉もとへ弓矢を打ち込んだ。



「で。オレだけが怪我すんのね」


 とりあえずその場に現れた魔物全てを退治した後、ククールが不機嫌そうな声でそう言った。
 ゼシカを助けたまでは良かったが、彼の前にはもう一匹、今まで彼が相手をしていた敵がいたのである。完全にそいつに対しては無防備だったため攻撃を避けることができなかった。振り下ろされた爪が肩を切り裂き、痛みを感じながらもすぐに態勢を立て直して矢をそいつに打ち込んだため、大事には至らなかったが、素早さがある程度あって良かったぜ、とククールは小さく溜め息をつく。


「あー、えっと、ごめんククール。ありがとう」

 ククールの不平に、ゼシカが申し訳なさそうに謝った。

「でも元はといえば、ヤンガスが悪いのよ? 敵に隙見せるから」

 その言葉に今度はヤンガスが、「すまなかったでがす。助かったでがす」とゼシカに謝り礼を言う。

「でも、アッシだって、兄貴が危なくなければこんなことは」

 ここでようやくエイトが、みんなの視線が自分に集まっていることに気が付いた。

「……ごめんなさい。ヤンガス、助けてくれてありがとう」

 素直に謝ったエイトだが、無事だったミーティアの方を見て「でも、だって姫が……」と呟いた。


「……いいよ、もう。エイトが王さまと姫さま第一だってのは知ってるし。そうでなきゃエイトじゃないし。いいもん、オレだけが怪我すりゃ丸く収まるんだもん」

 ぶぅ、と頬を膨らませて、今にも地面に「の」の字を書き始めそうなククールを見て、仲間たちは呆れたように視線を合わせた。

「ごめんってば。ククール、機嫌直せって」

 ゼシカとヤンガスの視線に負けたエイトが、拗ねてしまった赤いカリスマの肩を抱くように手を回した。

「あとで何か言うこと聞いてやっから、な?」

 とりあえず先に進みたいエイトが特に何も考えずにそう言うと、ククールは「じゃああとでベロちゅーさせて?」と素晴らしい希望を出してきた。
 途端、ごつんと思い切り殴られ、ククールは頭を抱えてうずくまる。ふん、と怒って馬車の元へ行ってしまったエイトを見やって、ふと、先ほど受けた傷が完治していることに気付く。どうやらエイトがホイミを掛けてくれたらしい。


「今日はこれで我慢しとくか」



 素直じゃないエイトに笑みを浮かべそう言ったククールだが、パルミドへついた後、ちゃっかり本願を果たしたかどうかはまた別の話。





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2005.01.13








いや、待てククール。「いいもん」ってどうよ。
どうでもいいですが、小具之介は以前「最華荘(サイカソウ)」というアパートを見かけたことがあります。いくら漢字が違うとはいえ、そんな名前をつけた大家の真意が知りたい今日この頃。