1.出会いはこうして 「君の色」


「第一回! 秋の夜は長いのにおとなしく寝てられません大暴露大会っ!!」

 どんどんぱふぱふ、と一人で効果音を口にしたエイトが酒瓶を大きく上に上げて叫ぶ。
 おいおいおい、エイトさんよ。野宿だってのにそんな大声で騒いでいいんですか魔物とか来たりしませんか火を焚いてるから大丈夫ですかそうですか。
 軽く溜め息をついて、ノリノリのゼシカたちにあわせるようにククールも手をたたいておいた。

「で、何を暴露するの?」

 解いた髪の毛へ櫛を当てながらゼシカがそう尋ねた。その隣にはすっかり出来上がってしまっているヤンガス。トロデ王は既につぶれて馬車の中で一人休んでいる。皆酔いつぶれたところを魔物にでも襲われたらどうするんだ、と思いはするが、未だにエイトがつぶれたところを見たことがないため、恐らくククールの杞憂に終わるだろう。それでも考えずにいられない自分は、もしかしたら随分と几帳面で、真面目な性格だったのかもしれない。

「好きな子の名前っ!」

 ゼシカの問いにそう答えたエイトに、ククールは思わず「どこのガキの話題だよっ!」と突っ込みを入れてしまう。いい大人が集まって好きな子の話題ってのはあんまりじゃないか?

「えー、じゃあ初エッチの相手?」

 小首を傾げて可愛く言ったエイトの頭へゼシカが「教育的指導」と言って、側に落ちていた小石を投げつけた。そしてちらりとククールの方を見て、「最近、あんたの性格が移ったんじゃないの?」と失礼なことをぼやく。

 恐らく、あまりにも早く日が暮れてしまい、動くに動けなくなったため持て余した暇を何とか潰そうとした結果なのだろうが、深く考えずに始めてしまったらしい。どうしてこうも考えなしなのかね、とククールはもう一度溜め息をついた。

「互いの第一印象ってのはどうだ? 勿論嘘偽りなしで、言われた方も怒らずに聞くってのが条件」

 このままでは決りそうもないので、助け舟を出しておく。興味がある事柄ではないが、全く聞いてみたくないというわけでもない。彼の言葉に、ゼシカは「あら面白そう」と笑み、ヤンガスが「賛成でがす!」と両手を挙げた。

「よっし、じゃあ、年功序列ってことでヤンガスからな」

 エイトに任せていては進むものも進まない。結局司会進行はククールがそのまますることになった。ククールに指名されたヤンガスは、右手の酒瓶へ直接口をつけて飲んでから、「そうでがすね」と一堂を見渡した。

「ククールは気障ったらしい嫌な男だと思ったでがすけど、よく覚えてないでがす。けんかに夢中で」

 そういえば、とククールは出会ったときのことを思い起こす。酒場で一番暴れてたのはこの男だった気がする。

「ゼシカは気の強ぇねぇちゃんだなぁと。いきなりメラ打ち込まれたでがすからね」

 ヤンガスの視線に、ゼシカは小さく舌を出して「ごめん」と謝った。

「兄貴は、かっこ良かったでがす。アッシみてぇな奴でも見捨てずに助けてくれて。あの時はほんと、ありがとうごぜぇやした!」

 深々と頭を下げてくる彼に、エイトが「もういいってば」と苦笑している。なかなかよい話だとは思うが、ククールは満足しない。

「ちょっと待てよ、ヤンガス。エイトのは助けられたあとの印象じゃん。第一印象はどうだったかって聞いてんの」

 意地の悪い笑みを浮かべてそう尋ねてくるククールに、ヤンガスがうめいて言葉を詰まらせた。ちらりとエイトを見てから「そ、それはでがすね」と言葉を濁す。

「大丈夫だって、暴露大会を始めたのはこいつだし、怒らないって約束だもんな?」

 エイトに確認すると彼は「うん、怒んない」と首を縦に振った。それを見てヤンガスが恐る恐る「じゃあ」と口を開く。

「一瞬、女かと思ったんでがす。背も低かったし、小さかったし、服がひらひらしてたから。背中に武器持ってたから用兵だろうとは思ったでがすが、似合わねぇなぁと」

 ぴくり、とエイトの口端が引きつったのを見て、ヤンガスが慌てて両手を振った。

「や、で、でも、すぐに、その兄貴が男だって分かりやしたし、随分力もありやしたし、それに」

 次々と言葉を繰り出すヤンガスに、ゼシカがこらえきれずに噴出した。吊られてククールも笑い、エイトも苦笑して肩を竦める。

「じゃあ次オレな」

 くつくつと未だ止まらぬ笑いを喉の奥から漏らしながら、ククールが口を開いた。

「オレのは単純だぜ。誰だよこのデブ、ぜひとも今夜のお相手に、何だ男付きかよ」

 順番に指をさしながら言葉を口にした。
 イカサマがばれる前にあの場から逃げ出すことができたから助かったと思いはしたが、正直トラブルに巻き込まれるのはごめんだった。わざわざトラブルを引きを越したヤンガスに対してはあまりいい印象を抱かず、ゼシカは良い体だと嬉しくなり、その側にいたエイトを彼女の男だと思って少々面白くなかった。

「デ、デブって! お前!」

 うがぁ、と叫び声を上げてヤンガスが非難を口にするが、「怒らないって約束だろ?」と笑ってそれを封じ込めた。

「次は私ね」

 私も結構単純よ、と少しはなれた位置にいたゼシカが焚き火の側まで近寄ってくる。彼女へグラスを渡して酒をそそぎながら、「どうぞ、お嬢さま」と席を勧めた。

「エイトとヤンガスに対しては兄の仇とばかり思ってたから、憎しみしかなかった。そうね、あとで冷静になってみたときには、随分面白い組み合わせだなって思ったわ」
 華奢な男の子が熊みたいなおじさんに「兄貴」って呼ばれてるんだもん。一瞬そう言う関係なのかな、って。

 そう言ってクスクス笑うゼシカの頭を、今度はククールが軽く叩いた。「教育的指導」
 以前の彼ならたとえ突っ込みだとしても、女性の頭を叩くことはなかっただろう。しかし、勿論スタイルとしてゼシカを口説くことはするが、やはり彼女は仲間なのだ。口説くためだけの相手ではない。

 彼らの前では「そういう関係ってなんでがす?」とヤンガスがエイトに尋ねている。尋ねられた方はそれには答えずに、「でもじゃあ、俺が兄貴ってどうよ。逆じゃねぇ?」と首を傾げていた。
 そうそう、だから変だなーって思ってたのよ、とエイトへ言葉を投げかけたあと、ゼシカは隣に座るククールを見上げた。

「あんたに対してはね」

 く、とグラスの中の酒を飲み干して、ゼシカは顔を顰めた。

「悔しいけど、綺麗な顔だと思ったわよ。いい男だとは思わなかったけどね」

 ぷいと顔をそむけながらそういい捨てたゼシカへ、ククールは「それは光栄」と笑いを零す。

「はい次、最後、エイトの番よ」

 ゼシカに指名されて、エイトは「ようやく回ってきた」とにんまりと笑う。

「ヤンガスはなぁ。熊が喋ったっ! ってビックリしたなぁ」
 しかも金要求してくるし。一瞬、熊世界にも通貨ってあるのかって悩みかけた。

 けらけら笑いながら言うエイトに、ヤンガスは「ひどいでがすよ、兄貴」と半分涙目ですねている。

「ゼシカは、いい乳してん」

 言葉を最後まで発する前に、ゼシカが投げた小石が頭に命中する。彼女の投石スキルは確実にこの旅の間にアップしている。それに「痛ぇなぁ。怒んないって約束じゃん」と口を尖らせてエイトが文句を言った。

「ああもう、男って最ッ低! そこしか見ないのかしら」
「だってなぁ、しょうがないじゃん。なあ」

 エイトに同意を求められ、ククールも苦笑して頷く。

「本能だよこれは」

 人は己にないものを求めるのさ、と嘯くククールへ、ゼシカはあきれたように溜め息をついた。

「もういいわよ、この馬鹿コンビが」

「うへへ、馬鹿って呼ばれましたぜ、ククールさん」
「馬鹿はどうでもいいが、お前とひとくくりってのが気にいらねぇな」
「何だよ。裏切るの?」
「裏切るも何も、オレはお前みたいなムッツリじゃねぇもん。正々堂々とスケベだもん」

「あー、もう! いいって言ってるでしょ! そういうとこが馬鹿コンビだってんの!」
 さっさと次行って次。ククールへの第一印象はどうだったのよ。

 ゼシカに先を促され、堂々としたスケベとムッツリスケベ、どちらがより良いか議論していたエイトはぴたりとそれを止めて、まじまじと正面の男を見た。

 実は、ククールはエイトに見詰められるのが苦手だ。ふざけた思考回路や突飛な行動は置いておくにしても、彼の目は酷く真直ぐにものを見る。そんなことがあるわけないと思いながらも、内面を見透かされそうで居心地が悪いのだ。
 さりげなく視線をそらせたククールの耳に、ぼそりと小さく呟かれたエイトの言葉が飛び込んできた。

「青」

 それが一体何の事をさすのか分からずに、そらせた視線を再びエイトへ戻す。彼はうん、と一人で納得したように頷いてもう一度、

「綺麗な青」

 と言った。

「エイト、この男のどこを見たら青が出てくんのよ。どっからどう見ても真っ赤じゃない」

 あきれたようなゼシカの声に、ようやく彼の言葉が己の第一印象を述べたものであることに気付いた。
 聖堂騎士団の服としては異色の赤。それを身にまとっているのでそう言われることは多かった。言われたククールでさえ、どこを見て彼が「青」と言っているのか。

「うーん、でも第一印象だろ? そう思ったんだもん」

 口にしたエイトも理由を求められて困ったように笑う。

「それはあれだな、オレの青空のように広く美しい心を見越してそう思ったに違いないね」
「青臭いガキだって思ったんじゃないの?」

 前髪をかきあげて言うククールへゼシカが辛辣な一言を投げかけた。どういうことだよ、と問いただす前に彼女は「あら、もういい時間ね。先に休ませてもらうわ」と馬車の方へ戻ってしまった。
 逃げられた、と舌打ちをするククールを見て、エイトが笑いを零す。
 先ほどから声がしないと思えば、ヤンガスは既に夢の中。仕方ねぇな、とエイトが苦笑して、荷物の中にあった毛布を彼にかけてやった。


 パチパチと焚き火がはぜる音にしばらく耳を傾けていたが、ふと視線を上げると、エイトがあの真直ぐな目でこちらをじっと見ていた。
 どうした、とでも言うように、軽く首をかしげると、エイトは「いや」と口元に手を当てて考え込む。それでも視線は外さないままで、それどころかこちらを見たまま徐々に近づいてきた。あとずさるのもなんだか負けたような気分になるので、動かずに彼の気がすむようにしてやる。
 あと少し近づけば体が触れ合う、というところでぴたりと歩みを止めて、エイトはぽん、と両手を合わせた。

「目だ」
「は?」

 相変わらず思考の読めない奴、とあきれたように聞き返すと、エイトは「ククールの目って青かったんだな」と呟く。

「え? あ、ああ。青いけど、それがどした?」

 尋ねてふと思い出す。

「……もしかして、オレへの第一印象がどこからきたのかずっと考えてたのか?」

 そう聞くとエイトはうん、と頷いた。

「そうだよな、俺だっておかしいと思うもん。銀色だってんならまだしも、何で青って思っちゃったのかなって」

 そう言って、多分目だよ、と続けた。

「そのアホっぽい真っ赤な服とか、綺麗な銀髪とか、そう言うもんじゃなくって、お前見たときまずその真っ青な目に見入ったんだ。だから青いってイメージになったんだな」

 俺、相当お前の目が好きなんだなぁ。


 恐らく何の他意もない、純粋なはずのその言葉に、まるで熱烈な告白を聞いているような気分になり、赤面した顔を誤魔化すかのようにククールは「アホっぽいってのは何だよ」とエイトの頭を殴っておいた。





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2005.01.09








クク主……?
ホモっぽく頑張ってみたけど。ブランクって怖ぇ。
(小具之介、ホモパロを書こうと試みるのは数年ぶりでございます。)