I wish I were a bird!


 クラン・スピネルという宝石の持ち主である彫刻家に会うために、ゼシカを欠いた三人はその彫刻家が一生をかけて作り上げようとしている塔へとやってきていた。
 石の剣で扉を開け、魔物がはびこる内部を、上を目指して登る。
 宝石を貰い受けることが目的ではあるが、それ以前にまず、ククールはその彫刻家に会えたなら、いったい何故こんな面倒くさい造りにしたのかを問いただしてやらなければ、と思っていた。

 空中でつりあっているシーソーの一端に石像を乗せ、傾いたシーソーを橋代わりに上へと進む。どちらに重石を乗せるかで取れるルートが変わってくる上に、行き止まりであることも多く、先ほどから何度も石像を動かしてはシーソーを傾ける、を繰り返していた。

 そのうちふと、シーソーの片方に乗ったままエイトが、彼の体重のせいで上に上がったままのもう一端を見上げて提案をする。

「なぁククール、あの上に行って石像落としてくれない?」

 いきなり何を言い出すのだ、と彼を見るも至極真面目な表情。しかしエイトの表情は彼の内面と同調しているわけではない。どれだけ真面目な顔をしていても、エイトはエイトでしかないのだ。
 また何か良からぬことを企んでいるのだろう、とククールはため息をついた。

「なんで」

 エイトが何かするたびに、壮大な被害がこちらに及ぶことも少なくない。そういう事態を避けるためにはできるだけ彼の意図を正確に把握しておく必要がある。
 ククールが問い掛けると、エイトは「うん、あのさ」と説明を始めた。

「俺と石像って明らかに石像の方が重いだろ? で、上がってる向こう側に石像を落としたらさ、こっち側ってどうなると思う?」

 どうなるもなにも、深く考えるまでもない。

「上に上がるだろうな、すごい勢いで」

 重い石像を乗せられるとシーソーは勢いよくそちら側に傾く。たとえ反対側にエイトが乗っていたとしても、彼くらいの体重ならば影響はまったくない。そもそも三人がその上を上り下りしても大丈夫なほどその石像は重石としての役割を果たしてくれている。しかもそれを乗せるのではなく、落とすのだ、と彼は言う。そうなれば尚更反対側が上に上がる勢いは増すはずだ。あっさりとそう答えると、エイトは「そう、そうなんだよ!」と嬉しそうにククールを指差した。

「ってことは、だ。乗っかってた俺は勢いよく上に飛ばされる、ってことだろ?」

 ちまちまシーソーを動かして上に上らなくても、ある程度まで登れるのではないか、とエイトはそう言いたいらしい。
 彼の中のイメージはおそらく昔戦争に使われていた投石器のようなものなのだろうが。

「ちょっと待てよ、そうしたらオレはどうなるんだ? 取り残されるわけ?」
「そういうことになるな」

 エイトはあっさりとそう肯定した。そして、「ククールが嫌ならヤンガスでもいいんだけど」と今まで黙って話を聞いていた彼の方を振り返る。

「そりゃアッシは構わねえけど、そうしたら兄貴は一人で上に登ることになるんでがすよね? 危険でがすよ」

 至極まともな反論ではあると思うが、突っ込むべきところはそこではない。ククールは強くそう思った。ゼシカがいたら絶対に彼に同調してくれたはずなのに。焦がれる相手は今や杖のせいで青い顔をして雲隠れの真っ最中である。
 危険だ、危険じゃない、と言い争っている二人を見て、ククールはもう一度ため息をついた。

「あのさ、エイトくん、根本的なことを聞いてもいいかな。お前、飛び上がったあとどうすんの? そううまく登れるの?」
 つーかその前にさ、あそこまで登って石を落とすんならそのまま登っちゃったほうが早くね?

 塔の中心に伸びる空洞の上部を指差してククールが尋ねた。そもそも垂直に上に飛び上がったからといって、それがどこまで届くのかも分からない。飛んだところで捕まるものがなければ上の階にいけるはずがない。
 それに彼が飛び上がるために石像を上から落とす必要がある。そのためにもやはり上に登らなければならないのだ。ならばそのまま登ってしまった方がどう考えても手っ取り早い。
 普通は考えずともそれくらい分かるだろう。エイトのあの発想も単なる冗談としてだったら十分に許容範囲内なのだが。

「そ、そこは何とかするの! とにかく、俺は飛ぶの、飛ぶったら飛ぶの!」

 その台詞でククールはようやく気がついた。エイトは上の階に行きたいわけではなく、ただシーソーで遊びたいだけなのだ、と。

「あのな、エイト。今は遊んでる暇はないってこたぁ、いくらお前の頭でも分かるだろうが」
「遊んでるんじゃないもん。上に行く方法だもん」
「『だもん』じゃねぇよ、明らかにお前が遊びたいだけじゃねぇか」
「失礼な! 一生懸命考えたのに」
「お前の一生懸命がそのレベルだってことはよく分かった。分かったから諦めろ」
「やだ! 俺は鳥になるんだ!」
「なれるかッ!」

 エイトの明後日な思考回路とそれにそった言葉に、ククールは律儀にもいちいち言葉を返す。きっぱりと希望を否定されて、エイトは唇を尖らせた。

「なんだよ、鳥になれたらカッコいいと思わねぇの? 背中に羽とか生えてさ。プリティーエンジェルエイトくんの誕生だぜ?」
「待て、いろいろ待て。いくらシーソーで飛んでも羽は生えねぇ。ってかプリティーって自分で言うな。エンジェルって自分で言うな」

 何やら奇妙なポーズを取ったままそう言うエイトへ、ククールは頭を抱えた。おそらくそれが「プリティーエンジェルエイトくん」の決めポーズなのだろう。「エイトくんはあなたの恋のお手伝いします」と体をくねらせている。
 それはエンジェルじゃなくキューピッドだろうと思ったが深く突っ込まないでおいた。

「だったら弓矢使えないといけないじゃん。お前使えねぇだろ」
「……ヤ、ヤリと剣なら使えます」
「どうするんだそんなもんで」
「今なら先着20名さまを、なんと特別価格1300G(税抜き)で天国旅行へご招待!」
「金取るの!? しかも税抜きか! って、その前にそれじゃ天使じゃなくて死神だ!」
「安全で確実な旅行ですよ?」
「いや、『ですよ?』じゃねえよ、始めから安全とは対極の位置にある旅行じゃねえか」
「プリティーエンジェルエイトくんは絶対に失敗しませんから。苦しまずにひと息で!」
「胸を張るな!」
「何なら試してみますか?」
「断る」
「いやいや遠慮なさらずに」
「してねぇ、全然してねぇ! だから人の話を……ってヤリをこっちに向けんなぁっ!」





 シーソーの上でくだらない言い争いを続けている二人の側を、呆れた表情をしたライドンが「何やってんだ小僧ども」と言いながら上へと登っていたことに気がついたのはヤンガスだけで、彼はライドンへ向かって「あ、ども。お邪魔してるでげす」と頭を下げただけだった。





ブラウザバックでお戻りください。
2005.02.10








ヤマもオチもイミもないです。
「俺は鳥になるんだ!」が書きたかったんです。ただそれだけです。