4月1日 経済的事情と体力的な問題が上手くかみ合った昨日、パーティはとある村の宿屋に一人一部屋ずつ寝場所を確保していた。その翌朝、そろそろメンバが各自起床して出発の準備をしようかという時間帯。 コンコン、と遠慮がちなノックが聞こえ、部屋の主が答えるとパーティの紅一点がおずおずと顔を出した。 「あれ、ゼシカ、どしたの、こんな朝早く」 「うん、ごめんね。ちょっと、どうしても、しておきたい話があって」 伏し目がちにそう切り出してくる彼女に、どうやら寝癖を直しながら聞くものではなさそうだ、とエイトはびよん、と跳ねる髪の毛を諦めてベッドへと腰掛けた。彼の隣にゼシカも腰を下ろす。 「あのね、エイト。怒らないで聞いてほしいの。実はね、私……」 続けられた言葉が理解できず、エイトはずいぶん長い間を空けて「は?」と聞き返した。そんな彼に怒ることもせず、ゼシカはもう一度、今度はゆっくりはっきり、同じ言葉を口にする。 「私ね、この胸、半分以上、作り物なの」 「つ、」 作り物、って、あれか、寄せてあげてってやつか? いや、っていうか作り物には見えませんし、ずいぶん激しく動いてるけどずれてる様子も見受けられませんがってそんなにじっくり見てるわけじゃないよ? じゃああれか寄せてないなら中に詰めてるってか、シリコンとか、豊胸手術みたいな? あれ失敗するとかなりひどいことになるみたいだけど、ゼシカの場合は上手くいったってこと? だってものすげー形いいもんなぁ、あれ……いやだからそんなに見てるわけではないけどね、ええ、決してって誰に言い訳してんだ俺。つか、あれは嘘胸の感触じゃねぇだろ、触ったことあるけど。 などと、思考の波に溺れそうになっているエイトの横で、ゼシカは顔を覆って言葉を続けた。 「ほ、本当は私、全然胸なんかないのっ! でも、私、こんな性格だからせめて体だけでも女の子らしくなりたくて……っ!」 「ゼ、ゼシカ、大丈夫だって! 女は胸じゃないから! 胸なくても全然問題ないよ!」 エイトは慌ててそうフォローを入れるも、ゼシカの肩の震えは徐々にひどくなっていっている。 「あ、いや、だからさ、ほら! 確かに、ゼシカの揺れるおっぱいが見られなくなるのは寂しいけど、ゼシカがいなくなるわけじゃないし! ていうか、おっぱいなくてもゼシカかわいいって! ゼシカなら貧乳でも余裕で襲えるよ、俺!」 必死ではあるが、きっぱりとそう言い切ったエイトに、ようやく顔を上げたゼシカが驚いたように目を丸くする。そしてすぐあとにふわり、と笑みを浮かべるとベッドから腰を上げ、座ったままのエイトを見下ろした。 「ありがと、エイト」 もう一度、本当に嬉しそうに笑った後、背を向けたゼシカは「でね、エイト、ここが重要なんだけど」と言いながらドアの方へと歩いていく。 「今日は何月何日でしょう」 くるり、と振り返った彼女の顔には子供のような笑みが浮かべられていた。 彼女の変化に戸惑いながらもエイトは「今日は確か」と、右斜め上へ視線を向ける。 「四月、ついた、ち……?」 呟いた瞬間、ようやく悟る。その瞬間、ゼシカは笑いながら素早く廊下へと姿を消した。 「ゼシカァッ!」 朝っぱらから手の込んだ悪戯を仕掛けてきた彼女にどんな怒りをぶつければいいのか分からず、とりあえず手近にあった枕を彼女の消えた扉へと投げつけておいた。 どん、と鈍い音がした後、そこからひょっこりと顔を出したゼシカは「ヤンガスは純情だからターゲットにしちゃ駄目よ」と言って再び顔を引っ込めた。 その言葉にエイトはにやり、と口元を歪める。 幸い今日は始まったばかり。考える時間はまだたっぷりと残っている。 どんなことを言えばあいつは驚くだろうか、と考えながら、エイトは再び寝癖と戦い始めた。 ブラウザバックでお戻りください。 2008.04.02
ククールを騙しに行く→返り討ち→お仕置き 展開が読める……! |