Happy Halloween! 「トリックオアトリートッ!」 叫び声とともに扉がものすごい勢いで開かれ、何か小さなものがククールに向かって投げつけられた。顔や肩にあたって落ちたそれへ目をやれば、紙にくるまれた色とりどりの小さな飴玉。 ふぅ、とため息をついてそのうちの一つを拾い上げた。 「エイトくん、ちょっと」 おいでおいでと手招きをすると、素直にひょこひょこと寄ってくる。そんなエイトへ笑顔を見せて、「お前はハロウィンを根底から勘違いしているな」とその頭を加減なく拳で殴った。 「『トリックオアトリート』って言って、お菓子貰える日」 いくらククールが非力とはいえ、それはエイトやヤンガスに比べての話である。一般的な成人男性程度には力があるため殴られて痛いのは当然だ。頭を押さえてしゃがみ込み、痛みに耐えながらそう言ったエイトへ、ククールはもう一度大きくため息をついた。 「こういう文化的行事に参加しようって心意気は、おにーさん、すごくいいことだと思うぞ」 投げやりな口調でそう言いつつ、エイトが投げつけた飴玉をすべて拾い上げていく。 「でもやるなら正しくやりなさい。食べ物は投げちゃ駄目」 手のひらの上に乗せた飴玉をエイトへと返す。 「あと、お菓子をもらえるのは『トリックオアトリート』って言った人。『お菓子くれなきゃ悪戯するぞ』って意味な。それに『ハッピーハロウィン』って返して飴とかクッキーとかを渡すんだ」 両手で飴玉を受け取りながらククールの説明を聞いていたエイトは、「へぇ」と呟いて自分の両手へと目を落とす。じっと飴玉を見つめたあと、顔をあげて今度はククールを見つめてきた。そして再び手の中の飴へ視線を向ける。 「......Trick or Treat」 なんとなくエイトの意志を察し、ため息とともにそう口にすると、やはりそう言ってもらいたかったらしい。満面の笑みを浮かべて「ハッピーハロウィン!」とエイトは飴玉を盛った両手をククールの前へと差し出す。言われたとおりもう投げつける気はないらしい。苦笑を浮かべて手を差し出すと、持っていた飴玉を全部手渡された。 甘いものは嫌いではないが、エイトほど好んで食べるわけでもない。渡されたところで子供のように喜べはしないが、それでも機嫌の好さそうなエイトを見て悪い気はしなかった。 「ハロウィンって楽しいな!」 今のやりとりでどうやって楽しんだのかが分からないが、エイトは非常に満足そうだ。もしかしたら他人に(あるいはククールに)何かをあげる、という行為自体を楽しんでいるのかもしれない。 「お手軽な奴」 そう呟いてもらったばかりの飴玉を側のテーブルの上へと置く。ひとつ摘みあげて口へ放り込むと、オレンジの風味が口いっぱい広がった。ほんの少し酸味が効いており、これは当たりだな、と思う。エイトは基本的に飴だったら何でも喜んで食べているが、それでもミルク系のとろっとした甘さのあるものが好きらしい。しかしククールはどちらかというと、果物系のさっぱりした飴の方が好みなのだ。 からころと口の中で転がし、久しぶりに食べたお菓子の感触を楽しんでいると、不意にエイトの視線に気がついた。相変わらず必要のないことはべらべらしゃべる癖に、それ以上に瞳と行動で物を語ろうとする。羨ましそうなその視線はククールとテーブルの上の飴玉とを行ったり来たりしていたのだ。 「お前がくれたんだからな」 自分で食べたいならせめて半分でも手元に残しておけばよかっただろうに、とそう言うと、エイトはしょぼくれた表情を浮かべる。顔面には大きく、そこまで考えていませんでした、と書いてあるようだった。 あまりの情けなさに笑いをこらえていると、とどめとばかりにエイトは上目遣いでククールを見上げて「トリックオアトリート……」と呟く。思わず「ぶはっ」と吹きだしてしまったククールを責められる人間はいないだろう。 「あははははっ! ふ、ふつー、自分がやった菓子をもらいなおそうとか、しねぇだろっ!」 「だって! 食いたいじゃん、それ! 俺の飴だぞ、元は!」 「お前がくれたんじゃん! はははっ! あー、笑い過ぎて飴玉飲んじまったよ」 「えっ!? なんてもったいない!」 飲み込むくらいなら寄こせ、と言うエイトの両手を掴み飴玉奪還を阻止する。そして包みを開けて別の飴玉を食べると、今度はエイトの好きなミルク系の甘さが広がった。 「エイト、もっかい言ってみ?」 腕を引いてその小さな体を抱き込む。素直にそれに従いながら、唇を尖らせたエイトは、もう一度「Trick or Treat」と呟いた。 顎を捉えて顔を上げさせると、飴玉を含んだまま唇を重ねる。閉じていた唇をこじ開け、己の口の中にあったミルクキャンディをエイトの口の中へと押し込んだ。しかしそれだけでククールが満足するはずがなく、飴玉そっちのけでエイトの口内を舌でかき回し、柔らかな舌を捉えてきつく吸い上げる。 「ん、ふ、……っ」 薄く目を開けると、両目をぎゅ、と閉じ、頬を赤く染めるエイトが見えた。耳の後ろを指先です、と撫でると、ひくりと震える、その姿が愛おしい。 腰に回した手を緩めることなく、更に強く抱きよせながら顔を離し、最後にぺろり、と濡れた唇を舐めた。 「Happy Halloween!」 ブラウザバックでお戻りください。 2009.10.27
なんとかラブっぽくなって一番安心してるのは小具之介です。 初っ端から飴玉投げつけるからどうしようかと思った。 |