エイトくんとゼシカさん


「ぜしかぁ……どこいったんだよぉ……おれがわるかったからぁ……かえってきてくれよぉ……」

 顔を覆ってめそめそと泣き(真似をし)ながら、それでもリーダの行動は早かった。荷物をまとめ、トロデ王に報告し、宿の人間に仲間の行方を尋ねてすぐさまサザンビークを後にする。「ゼシカぁ……」と名前を呼びながらの嘘泣きは必要なのか、と問えば、「悲壮感が増していいかなと思って」と返ってきた。

「……余裕だな、お前」
「見かけだけでも余裕振りたいお年頃なんだよ、ほっとけ」

 ちっ、と舌打ちをしてククールの視線から逃れた少年の横顔は、やはりいつもより緊張を覚えているようだ。
 突然の仲間の失踪。疑問、不安、焦燥、心配、マイナスの感情しか湧いてこない。

「……やっぱり、四人ってのがバランス取れてて良かったんでがすなぁ」

 どうもしっくりねぇや、と困ったような顔をしてヤンガスが呟いた。エイトに心酔し、兄貴と呼んで慕っている彼ではあるが、いつの間にか人数の増えていたこのパーティを思いのほか気に入ってくれていたようだ。同感だ、とククールも素直に彼に賛成しておく。

「ボケ2に対してツッコミ1は正直きつい」
「エイトくん、ひとりで二倍ツッコミ入れられるよう頑張ります!」
「何でさらっと自分をツッコミ枠に入れてんだよ」

 おめーは全力でボケ枠だ、と後頭部を叩かれたため、痛い、と呻いて胸を抑えておいた。そうした下らないやりとりも、最終的にゼシカの「いい加減にしなさい!」という声が飛んでくるからこそ気兼ねなく交わせていたのだ、と今になって思い知る。
 彼女が今、どのような状態になっているのか、まるで想像はつかない。
 けれどエイトたちの知るゼシカという女性は、決して仲間たちに黙って姿をくらますようなひとではないのだ。

「……っしゃ、さっさとゼシカ、探そーぜ」

 このパーティには彼女の存在が必要だ。
 無事に見つけたら、できたら戻ってきてほしい、と頼み込むしかない。

「俺が壁ドンして『戻ってこいよ』って言うから、ヤンガスは泣きながらゼシカに抱きついて、ククールはスライディング土下座で謝罪ってのはどうだろう」
「なにがどう、『どうだろう』なのかまったく分からん」




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2016.07.19