エイトくんとハワードさま(2)


「うっ、ううっ……」
「だから泣くなって」
「兄貴は今回も頑張ってたでがすよ」

 ハワード邸を離れていた間、幸いにも目当ての人物が来襲することはなかったようだ。間に合った、とほっとしたのも束の間、こちらの承諾を得ないまま衛兵にさせられ、本を取ってこいと命じられる。それは衛兵の仕事なのか、ただの小間使いの仕事ではないのかと問いただしたい。両頬を思う存分叩きながら問いただしたい。
 そもそもエイトは衛兵にはならない、と断ったのだ。それなのに、遠慮するな、と言われてしまった。あのおっさんの耳はたぶん、エイトたちとは違うつくりをしているのだと思う。こんなにも会話が通じない相手は初めてだ。

「もー、なんなんだよ、あのひとっ、おかしーだろ!」

 文句を言いながらも、頼まれたことを無視するわけにも行かない。たたたた、と階段を駆け下り資料室へと向かう。

「もういいもんね、宝箱とか全部漁っちゃうもんね、鍵かかってるの開けて全部パクっちゃうもんね!」

 秘密の資料室には宝箱が三つ、置いてあった。きっとハワードが仕舞い込んでいるお宝品なのだろうが、そんなことはこちらには関係ない。まさに取ってくださいとばかりにおいてあるのだから、ありがたく頂くだけである。今までも全部パクってたろ、という僧侶からのツッコミは聞こえない振りをしておいた。この場合、ククールの言葉は聞こえているし意味も理解できているけれど敢えて聞こえないように振舞っているだけなので、ハワードのようにエイトの耳がおかしいわけではない、と弁解しておくことにする。

「どうでもいいけどこの本棚、どこからとっても、『ハワード一族の歴史』上下、『世界結界全集』の順番になるって知ってた?」
「……ほんとどうでもいいな」




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2016.07.19