エイトくんとメディさん


 賢者の末裔である老婆が、亡くなった。
 殺されたのだ。
 エイトたちの目の前で。
 復活をたくらむ暗黒神ラプソーンの手によって。

 阻止することが、できなかった。
 こうなるかもしれない、とどこかで予測していたにもかかわらず。
 結局エイトたちにはなにもできなかったのだ。

 老婆の亡骸を埋め、そうして静かに祈りを捧げる。
 彼女はとても立派な人物だった。
 わずかな時間しか会話を交わすことはできなかったけれど。
 それでも強く、優しいひとだということは分かった。

 ゼシカ、と墓石を前にしたまま、僧侶が静かに紅一点である少女の名を呼ぶ。

「泣くことは、罪じゃねぇからな」

 老婆の死を悼むこと、自分たちの無能さを悔やむこと、それは決して行ってはならないことではないのだ。

「……ッ、でも……っ」

 気の強い彼女は、弱っている姿を見せることを嫌う面がある。それはククールにもまたいえることではあったが、それでも彼女はまだ十代の少女なのだ。兄を亡くしたばかりで、チェルスの死に直面し、そしてまた新たな生の断絶を目撃してしまった。
 そのことに、柔らかな少女の心が傷ついていないはずがないのだ。

「みんな、つらい、のに、私だけ……っ」

 傷ついているのはみな、一緒だ。それなのに、自分だけが泣くのも違う気がする、と少女は思っているのかも知れない。皆が我慢するのだから、一緒に我慢をしたい。女だからだとか子どもだからだとか、そういった理由で涙を流す許可は要らないのだ。
 首を振ってそう告げる少女に、そっと抱きつく人物が、ひとり。

「俺も、泣く」

 泣くことは悪いことではない。
 性別や年齢が泣いてもいいことの理由にならないのだとすれば、同じように泣いてはいけないことの理由にもならないはず。
 リーダだからだとか、男だからだとか、そんな理由で泣くのを堪えなくてもいい。そういうことだろ、と僧侶に確認すれば、彼は青い瞳を優しく細めて、そうだな、と静かに答えた。

「たくさん、泣いとけ」

 その涙を無理に堪える必要はない。
 泣けるだけ泣いて、そうしてまた、前を向いて歩き出せばいい。




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2016.07.19