エイトくんと才能のない魔術師


「別に、誰が悪かったとか、そういうんじゃ、ねぇとは思うんだけどさ」

 ふと立ち寄ったトラペッタで、エイトとヤンガスが旅の始めに知り合ったという占い師の元を訪ねてみた。水晶を取り戻した彼の力はやはり素晴らしく、そうして一同が目にしたものは、最初に殺された賢者の末裔、ライラスの弟子であった頃のドルマゲスの姿。
 もちろん、城から杖を持ち出したドルマゲスが悪いに決まっている。魔術を使えるようになるため、安易な方法に飛びついた彼は、責められてしかるべきだ。
 けれど、こうして過去の光景を見ると、つい考えてしまうのだ。
 もし、師であるライラスがドルマゲスに対しもっと言葉を尽くしていれば。
 もし、ドルマゲスが杖のことを知らないままであれば。
 もし、城にやってきた彼が怪しいと、だれかが気がついていれば。
 もし、もっと杖の警備をもっと厳しくしておけば。
 こんなことにはならなかったのではないだろうか、と。

「すぎてしまったことは、仕方がないこと。泣いて、嘆いて、悔しがるのはもう、飽きたの」

 まだ最愛の兄を失った悲しみから抜け出せていないままの少女は、自分に言い聞かせるようにそう紡ぐ。

「奴が昔どんなだったのかとか、今更知ってもなぁ。アッシらにゃあ、どうしようもできねぇでげすよ」

 おそらくこのパーティの中では、トロデ王の次に年を重ねているだろう男が、少し罰の悪そうな顔をしてそう言った。
 自分たちが倒したあの道化師にも過去があった、ただそれだけのことだ。

「人間はどんなものにもなっちまうってことだ。賢者にも、化け物にも」

 長い間修道院に身を置き、教会に属する人々を眺めてきた男がどこか皮肉げに言い放つ。それは心を持つものならばどんな存在に対しても言えることなのかもしれない。
 賢者として讃えられるものも、そして魔力に心奪われ姿まで変えてしまったものも、元々は同じひとだった。
 分かっていたはずのことだったが、改めて事実として認識するにはどうしてだか、いやに重たい。
 ため息をついた少年リーダが、「俺はどっちにもなりたくねぇな」と小さく呟いた。




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2016.07.19