エイトくんとサヴェッラ大聖堂 「先にこっちきて、海賊の話を聞けば良かったんだな」 「東の大陸っつってたでがすから、ここから東っつったら、ああ、ちょうどトロデーンとか、トラペッタのある大陸でがすな」 それならば川というのはこの川で橋はこれかな、とヤンガスとエイトが今得たばかりの情報を元に地図を覗き込んで相談している。最初から行ったことのない大陸を目指して船を進めていたら良かったのだ、そうすればもう少し早くこのサヴェッラ大聖堂にたどり着くことができただろうに、とゼシカは思う。 とりあえず進む方向は見えてきた、これで闇雲にいろいろな町を巡ることもなくなるはずだ。 良かった、と安堵しつつ、せっかくきたのだからと、大聖堂も一通り回りたい、とエイトが駄々をこねた。もちろんゼシカも聖堂は見てみたかったため異論はない。 教会をすべる法王様は今にも崩れそうな岩の上に住んでいるそうだ。一度会ってみたいような気もするし、教会関係者なんて、と思ってしまう自分もいる。こうして旅に出て初めて知ったが、教会に属しているものすべてがすべて、清廉潔白ではない。それもそうだ、神父も修道士も人間なのだから。 神に仕える身であるにも関わらず他人を妬み、富や権力を欲する姿を見ていると、まだ常に行動をともにしている不良僧侶のほうがマシなのでは、と思えてくるほどだ。賭事に酒に女と、正直騎士としても僧侶としてもまるで認められない男ではあるが、それでも少なくとも、己の利益のためにひとを陥れたり、傷つけたりするような卑怯な手だけは取らない、と短いつきあいではあるが理解していた。そのひねくれた、斜に構えた態度も、もともとの彼の心がまっすぐで、曲がったことを嫌うからこそ、それを正せない世の中に、自分に憤っているのかもしれない。 法王の住む館へ繋がる天空の道のある建物で、マルチェロと再会した。仲間の身内とはいえ、正直あまり会いたくなかった人物だ。腹違いとはいえ弟に対する言葉とは思えないことを口にする。聞いているだけのゼシカでさえ気分が悪くなるようなことだ。本当に彼はククールの兄なのだろうか。 あまりのことに言葉すら失ってしまったゼシカのとなりで、「なんつーか」とパーティのリーダがぽつりと呟く。 「すっげぇ子どもっぽいひとだなぁ……」 それは誰に言ったわけでもない、単なる独り言だったのだろうけれど、はっきりと皆の耳に入るくらいの声量で、口にしたあとそう気づいたのだろう。「あ、悪ぃ、お前の兄ちゃんなのに」とククールに対し謝罪を入れていた。 マルチェロの言葉に少なからず腹を立て、そして傷ついていたのだろう僧侶は、先ほどまでの張りつめた、痛々しい表情を和らげ、「いや」と首を横に振る。 「あいつ……兄貴も、エイトに言われたらおしまいだな」 そう返し、笑みを浮かべてくしゃり、とエイトの頭を撫でた。最近よくそういった姿を見かける、ような気がする。彼を相手にしているとつい、そういう態度を取りたくなってしまうのかもしれない。年齢的にはエイトのほうが上のはずなのだが、ゼシカもなんとなく、手のかかる弟のように見えてくる瞬間があるのだ。 どういう意味ですかエイトくんが子どもっぽいってことですかエイトくんをバカにしたらダメなのです激おこなのです、と頬を膨らませて文句を連ねる、その姿はでもおそらくはわざと、だと思う。 仲間の顔に影が落ちたことを気がついた少年は、そうしてときどき、道化の振りをする。彼の場合は日常的にこの言動なのでもしかしたら無意識のうちに、かもしれないけれど。 「とりあえず金スライム見っけたから写真撮って!」 「……子どもじゃないって言い張るなら、写真くらい撮れるようになってくれ」 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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