エイトくんと隔絶された台地


「シヌカトオモッター」

 海賊の洞窟で手に入れた海図が示す先は岸壁。衝突して大参事になるかと思いきや、岩をすりぬけて進む船に甲板で一同ほっと胸をなで下ろす。上陸した大地で少年リーダがしゃがみ込んでため息とともにそう呟いた。なんで片言なんだよ、と僧侶が彼の後頭部に蹴りを入れている。

「その地図でたどり着いたってことは、この島に神鳥とやらがいるってことかい?」

 さっきの影はそれかねぇ、と空を見上げているのは、仲間になったばかりの女盗賊である。盗賊としてあちこち気ままに歩き回り、いろいろなものを見ているからか、彼女は意外なほどすんなりとエイトたちが何を探しているのかを受け入れてくれた。伝説上の存在だろう、と笑い飛ばされることも覚悟していたのだが、柔軟な頭を持っているからこそ、ついてくる、と言い出したのかもしれない。
 ゲルダの言葉に、「どうだろうなぁ」と同じように空を仰ぎ見ながらヤンガスが答えた。

「いてくれたらまあ、助かるがなぁ」

 はるか昔、暗黒神ラプソーンによって蝕まれかけた世界を救ったのは七人の賢者、そして神鳥レティス。賢者の末裔たちを守るためにも、できればまたレティスの力でも借りれられたら、とその伝承について調べているところである。
 この島に何らかの手がかりがあればいいのだが。
 そう思いながら、とりあえず島の中を歩いてみよう、と広い大地を進む。地図上では南にあるからか、それとも高い山に囲まれた盆地のような場所だからか、ほかの大陸より若干気温が高い、ような気がした。
 あつい、と銀髪の僧侶がぶつぶつと文句を言っている。ヤンガスやゼシカは薄着でいいよな、と。

「……だったら、脱げば?」

 やかましい男をじっとりと睨みつけ、ゼシカが突き放すようにそう言った。ぐ、と言葉に詰まったククールは、それでも「おいおい、ゼシカ嬢」と髪をかきあげる。

「こんなところで随分大胆な発言だな? 脱衣がお望みなら、今晩ベッドを共にしたときにでも」
「今ここでパンツ一丁に剥かれるのと、マヒャドで氷漬けにされるのと、黙るの、どれがいい?」
「黙りマス」

 右手に生み出された氷の欠片が、彼女の本気度を表している。両手をあげて素直に敗北を認めた僧侶へ、軽く冷気を送ってあげながら、優しい彼女は「せめて髪の毛、もうちょっとアップにしたらいいんじゃないの」とアドバイスをあげていた。
 そんなふたりを見やりながら、「あいつらはいつもあんな感じなのかい?」とゲルダが昔馴染みに尋ねている。「まあ大体は」というのがその男からの返答だった。

「じゃあ、あの子はいつもあんな感じなのかい?」

 そう言って次に女盗賊が指さしたのは、パーティをまとめるリーダ、なのだけれど。

「迷子のー、迷子のー、レティスさーん。ぷりちーでえんじぇるなエイトくんがお探しでーす。いらっしゃいましたら、至急、しきゅう……」

 少し考え周囲をきょろきょろと見回してみるが、自分のいる場所を正確に言葉で表すことができなかったらしい。

「エイトくんのところまでお越しくださいませー」

 どこで拾ったのか、手にした細長い木の棒でがりがりと地面をひっかいて歩きながら、まるで無意味なレティスに対する呼びかけを行っていた。
 あれはどこまで本気なのかねぇ、と首を傾げているゲルダへ、「まあ大体はあんな感じでがす」とヤンガスは答えていた。




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2016.07.19