エイトくんとスキル会議 「えー、皆さま、本日お集まりいただいたのはほかでもない」 「集まるもなにも、いつも一緒じゃないか」 「ゲルダ、そういうツッコミはこのバカにはしても無駄だぞ」 「そうそう、聞き流しておいたほうがいいわよ」 「兄貴、何か問題でもあるでがすか?」 馬車を囲んでいる一同を見回したエイトの言葉に、それぞれ言葉を返す。「ヤンガス、お前だけだよ、俺の話を聞いてくれるの」とリーダはよよよ、と泣き崩れる真似をしたあと、すぐに頭をあげて、「スキルのことなんだけどさぁ」と続けた。 「ほら、たまちゃんのおかげでさ」 「たまちゃんって誰のことだい?」 「だからゲルダさん、いちいちエイトの言うことまともに聞かないほうがいいわよ」 「たぶん神鳥の魂のことだと思うぞ」 「あー、行ける場所が増えてすげぇ便利でげすね」 ヤンガスやっぱりお前だけ以下省略。 「スライムの谷でレベル上げ、し放題じゃん?」 「その前に竜骨の迷宮でもやったしな」 「みんな、レベル50はあるものね」 「今ならあたしもあの海賊の幽霊に勝てる気がするよ」 「結構頑張ったでがすよね。でもそれがどうかしたでがすか?」 「うん、スキルってさ、レベル38でマックスに出来るじゃん。で、既にみんな、二つはマックスになってるじゃん?」 「オレは剣とカリスマな。何でグランドクロスじゃなくて天国の階段に変わったんだろう」 「私は杖とおいろけがもう100よ」 「あたしは扇とアウトローだね。アウトローってなんだろうねぇ」 「アッシはオノと鎌でがす。でも人情もちょっと上がってるでげすよ」 弟分の言葉に、「そう、そこなんだよ」とリーダはびしっと、指を突き付けて言う。 「ヤンガスはもう決まってるけどさ、三つ目にあげるスキルをどうするよ、ってずっと悩んでんのよ、俺」 「ああ、だからスキルポイント、振らずに取ってあるのか」 ククールが納得したようにそう相づちを打った。基本的にスキル割り振りなどの戦略面は、リーダに一任しているのだ。腐っても兵士をしていただけあり、その点は信用のおける判断をしてくれる。 けれど、ある程度必要なスキルを得てしまっている今、レベルアップ時にもらえるものをどこに割り振ったらよいのか、決めかねているようだった。 「オレはあとは弓か杖か格闘か……。あー、杖が一番便利な気がするけどな。弓でもいい」 「私はムチあげたいかなぁ。せっかく強いムチ持ってるし。ほら、ヒーローズでもムチ使ってるし」 「ゼシカの姉ちゃん、あの世界のことは話題にしないほうがいいでがす。ほら、出られなかったエイトの兄貴が逆立ちして拗ね始めてるでげす」 「どんな拗ね方なんだよ、この子は……。あたしはあとはムチ、短剣、格闘だね。ムチだとゼシカとかぶるから、短剣でも上げとくかい?」 仲間それぞれが思う意見を口にする。それを聞いていた少年は逆立ちをしたまま、「うん、あのね、皆の分はねもう決まってて」とあっさり言い放つのだ。 「ククールは格闘」 「はっ!? なんでだよ!」 「ムーンサルトを俺が見たいから。ゼシカはムチ。ゲルダさんは短剣を」 「そうね、やっぱりムチよね」 「そうさせてもらうよ」 てきぱきと仲間のスキル振りを指示していく。そんな兄貴分の様子に、ヤンガスは首を傾げて口を開いた。 「そこまで決まってるなら、兄貴は何を悩んでるんでがす?」 そこでようやくぴょこん、と腕の力で飛び上がり、綺麗に足から着地した少年リーダは言うのだ。 「うん、俺がどうしたらいいのか、誰か、教えて?」 彼は素手での戦闘を極めた兵士。奇跡的なまでの手先(と頭)の不器用さにより、少年に武器は、使えない。 残っている彼のスキルは、剣、槍、ブーメラン。 どれをあげたとしても、彼にはなんの得にもならないのだ。 どれにしよう、眉を下げる少年を前に、有益な答えを返してやれるものはひとりもいなかった。 どうしよう。 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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