エイトくん黒犬に挑む


「せいやっ! どっせーいっ!」

 武器を使えない少年勇者の繰り出す攻撃で、そこそこの攻撃力を誇るスキル「岩石落とし」。地面を殴って(どこから出てくるのかまるで分からない)岩石を持ち上げて敵に向かって放り投げる技である。
 もちろん、(そのまま戦闘になることをすっかり忘れていて完全に準備不足のまま突入した)黒犬レオパルド戦でも、エイトの岩石落としは大活躍している。

「せいや、どっせーいっ!」

 楽しそうに、笑顔のまま巨大な岩を持ち上げては放り投げる。掛け声は必須らしく、「掛け声がないとか、おかかの入ってないおかかおにぎりみたいなもの」だと少年は言っていた。それはつまりただの塩むすびになるだけじゃないのか、と聞いていた僧侶は思ったが、それほど塩むすびに思い入れがあるわけではないので黙っておいた。
 少年の両手はおそらく、脳味噌と上手く繋がっていないのだと思う。
 この旅に加わって以降短い期間ではあるが、ブーメランをあらぬ方向に投げる、レンネットの粉をばらまくくらいなら可愛いもので、手に入れたばかりの守りのルビーをしまいこむ間に粉砕してしまったり(何をどうすれば粉砕できるのか知りたいくらいだ)、野営の際釣り上げた魚をさばこうと握ったナイフで自分の指をさばきかけたり(死ぬほどベホイミを重ねがけした)、馬車の荷台に詰め込んだ使わない武器を整理する際に幌を突き破って側面にいた弟分の後頭部を殴ったり(涙目になって謝り倒していた)、不器用という言葉ではくくれないような悪魔の所業を数えきれないほど見てきた。
 そんな少年が、どうしてだか岩は掘り出せるし、持ち上げて投げることができるのだ。自分でもできる攻撃手段に、少年が楽しさを見いだしてしまうのも当然のことなのかもしれない。

「せいや! どっせーいっ!」

 だから間抜けすぎて力の抜ける掛け声について、文句を口にはしない。

「せいやぁっ! どっせぇえいぃっ!」

 そもそもここは建物の中、法王の執務室だというのに、その岩石どっから出した、だとか。
 思っていても決して口にはしないのだ。

「……ツッコんだら負けなこともある」

 少年勇者のパーティメンバである僧侶はいつだか、疲れたようにそう言っていた。




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2016.07.19