エイトくんと煉獄島 絶望をしているわけではない。 打つ手がないとも思っていない。 生きているのだからまだ負けていない。 生きているのだから進む道は途絶えていない。 諦めたときに敗北が確定する。 諦めず足掻くために、必要な体力を温存するのが今できる唯一で最大のこと。 固い地面に横たわり、とにかく睡眠を取ろうと目を閉じたエイトの腹のあたりでもぞり、と動く小さな生き物。ちち、と鳴いて顔のほうに寄ってくる彼は、ずっと一緒に生きてきた友達だ。物心ついたときには既にエイトのそばにいてくれた、物言わぬ大事な、家族。 こんなとこにまでつきあわせてごめんな、と謝れば、彼は小さな手でぺしん、とエイトの頬を叩いた。気にするな、とでも言ってくれているのかもしれない。 小さな頃のことすぎてあまり覚えていないが、トロデーン国近くの森に倒れていたエイトを最初に見つけてくれたのはミーティア姫だったそうである。その彼女を案内したのが、このネズミ。トーポが姫を連れてきてくれなければ、エイトはそのまま命を落としていたかもしれない。 命の恩人といえばミーティア姫とトロデ王だが、命の恩鼠ならばトーポだ。小さな家族が懸命に救ってくれた命をむざむざ捨てるつもりはなく、またこの家族の命を守ってあげることはエイトの使命だとも思っている。 「絶対、生きてここから出ような」 小声で、けれど確たる意志を秘めたその言葉に、当然だとも、とトーポはまたぺちん、とエイトの頬を叩いた。 翌日、「大丈夫、絶対生きてここから出てみせるから」と仲間たちに向かって毅然と言い放つ、少年のその強い意志は、小さな家族に励まされて生み出されているものなのだ。 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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