エイトくんと新法王即位式


 ゼシカが杖に呪われても無事であったのは、何よりも彼女自身の心の強さ、正しさがあったからだとは思うが、こちらもまた彼女を助けたい、という思いを抱いていたからというのも大きかったのではないかと思う。
 あの時はまだ分かっていなかったが、加え今の時点では、あの杖がすべての元凶であることを知っているのだ。

「……死なせたいのか?」

 今おそらく杖を所持しているであろう男は、ククールの腹違いの兄だ。これからその男に、マルチェロに戦いを挑みに行く。その結果、彼がどうなるのかはまだ分からないけれど、もしかしたらドルマゲスや黒犬レオパルドのように命を失ってしまう可能性もある。
 負けるつもりはないけれど、と少し顔を伏せ言うククールへ、エイトは静かにそう尋ねた。
 正直、家族のいないエイトには兄弟に対する感情を理解できないし、特に彼ら腹違いの兄弟はいろいろと複雑なせいで、単純に語れない部分も多々あるようだ。だから本音の部分で、ククールが兄に対し、どうなってもらいたいのか、分からない。
 ある意味真っ直ぐな質問に、ククールは唇を噛んで少年を睨みつける。答えにくいことを聞くな、と思っているのか、お前には関係ないと思っているのか。
 ふい、と顔を背けられ無視されるかと思ったが、青年はそれでも小さく首を横に振った。
 エイトの言葉の、否定。
 死なせたくはない。
 たとえどれほど冷たい言葉を投げかけられようと、ゴミクズを見るかのような視線を向けられようと、忘れられないものが、ある。
 無言の返事に「分かった」と頷いた少年は、儀式が行われている神殿を見上げ、きっぱりと言い切った。

「じゃあ、助けよう」

 助けたい、と望まなければ、その先の道も生まれることはないだろう。




ブラウザバックでお戻りください。
2016.07.19