エイトくんと暗黒魔城都市 あああああっ! と少年の悲痛な絶叫が、暗黒神の居城に響きわたった。「うるせぇな、突然なんだよっ!」と僧侶が怒鳴る。 「エイトくんのぷりちーなお顔がぁっ!」 まがまがしい気配を漂わせていた城を進み、建物内部へ入り込んだところで急に今までとはまったく異なる雰囲気空間が広がった。普通の町並みのようでいて、その静けさに不気味なものを覚える。 自分たちをかたどった石の像に嫌な気配を覚えながら進んだところで、リーダの絶叫。何事かと思えば、先ほど見かけた石像の、エイトの像だけ首から上がなくなっていたのだ。ショッキングな光景に少年勇者は首元を押さえ、「うわあああ」とパニックを起こしている(振りをしているだけかもしれない)。 ほか三人の像が無事なだけまだマシ、なのかもしれないが。 「悪趣味ね」 「ひでぇことしやがる」 ゼシカとヤンガスがそう眉を顰め、「こうしてやるぞ、って予告のつもりかもな」とククールも険しい顔をして言った。悪意しか感じ取れない演出。この空間、いやむしろ城全体がこちらに好意を持っていないことなど明らかである。 顔を覆ってしくしくと泣いていたリーダが、僧侶の言葉にがばり、と頭を上げた。 「だったら、俺だけっての、おかしいだろ!」 石版のようなものに、「四人の巡礼者」とひとまとめにされていたのだ。エイトばかりがこのような目に合うわけではないはずだ。何か起こるのだとすれば四人一緒に、そうでなければおかしい。 「そのうち私たちのも頭、なくなるんじゃない?」 歩を進めればそうなる可能性が高い、とゼシカは言うが、それでもひとりだけ先に頭をなくしたことがエイトにはどうしても解せないらしい。 みんなも俺と同じ苦しみを味わうべき、だとかなんだとか。 よく分からない理論を振りかざし、無事であるククールの像に近づいていく。 何をするつもりだろうか、と眉間にしわを寄せたまま少年の背中を見やっていたククールは、はたと気がついた。 エイトの右手に、黒い油性ペンが握りしめられていることに。 「ぅおぉいっ! お前それで何するつもり!? オレの顔になにするつもり!?」 「ぐるぐるほっぺで眉毛繋げて、鼻毛かく!」 「教科書の落書きかっ! ばか、やめろ、何でオレなんだよ、ヤンガスの像いけよっ!」 「ばかやろう! ヤンガスをこれ以上面白くしてどうするんだよ!」 「ひでぇ言い草だな!? じゃあゼシ、あ、ごめんなさい、なんでもないです、だから、やめろっつーの、このノータリンッ! 残念勇者っ!」 像の顔に油性ペンを走らせようとする勇者を、僧侶が懸命になって止めている。その後ろでは「兄貴ひでぇでがすよ」と弟分がしょんぼりとしており、自分の像への落書きだけは阻止しようと額に青筋を浮かべて仁王立ちしているゼシカがいた。 城の最奥部で対面した暗黒神ラプソーン。 その姿を前に残念勇者が思わず「ちっさ」と呟き、聞きとめたメンバが一斉に吹き出してしまう、というトラブルがありながらもなんとか勝利をもぎ取り、崩落する城から逃げ出そうと必死に走り抜けている中。 四人の行く手を阻むかのように飛び出てきた四つの像。 「ッ」 「ふ……っ」 「ぶはっ」 「――ッ」 そのうちの右端、ククールの像の両頬に行きしなエイトがむりやり描いたぐるぐる渦巻きが残っていたものだから、メンバのうち三人が笑い出し、ひとりは怒り出す羽目になった。 「あはははっ、だめだ、笑って、力、入んねぇっ!」 「エイト、まずいわよ、ふふっ、あの、端っこの、先に倒しちゃいましょう」 「そうでがす、兄貴、あいつぁ、今までのなかで一番手ごわい敵でげす!」 ラプソーン戦でも見せなかったような一致団結具合の三人をよそに、ひとり涙目の僧侶は「天国への階段んんんっ!」とMPを20も消費する大技を発動させていた。 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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