エイトくんと神鳥の杖


「『神鳥』も俺の思ってた発音と違った」

 レティスより渡されたその道具を見ながら呟く少年へ、「発音のことは今はどうでもいいわ」とゼシカが額を抑えながら言った。その隣では、「『使う』じゃなくて『祈る』だからセーフだと思いたい」とククールもまた頭を抱えている。
 最終決戦に挑む彼らに神の鳥より渡されたもの、それは『神鳥の杖』と呼ばれるものだった。ラプソーンを守る結界を打ち破るため、その杖に祈りを捧げ七賢者の力を借りるのだ、と。
 杖を珍しげに眺めているエイトの両肩を掴み、覗きこんでくる僧侶の顔はいつに増してもひどく真剣だった。

「いいか、エイト、よく聞けよ」

 お前は何も、するな。
 杖を使おうと思うな。
 祈れ、ひたすら、祈れ。

 漆黒の瞳を覗きこみ、暗示を掛けるかのようにただ『祈れ』と繰り返す。
 そう、忘れてはいけない、この残念勇者。
 戦闘中に道具を使えないのである。
 彼が使おうと意識すれば、最悪杖をラプソーンに向かって投げつけかねない。
 僧侶の剣幕に押され、勇者は「わ、わかった」と青い顔をして頷いた。

「俺、頑張る」
「いや、頑張らなくていいから、祈れ」

 確かにラプソーンを前にし、その攻撃に耐えながら四人同時に七度も祈りを捧げなければならないだなんて、かなりきつい事柄だとは思う。
 けれど、彼らならばきっとそれを乗り越えてくれる。
 そう信じたからこそ神鳥も杖を託したのだけれど。

「でも祈るって具体的にどうしたらいいんだよ。杖振り回す?」
「だから、お前は結界を破るまでは指一本も動かすな。ただ頭の中で念じてろ」
「念じる? 『スプーンよ、曲がれー』って?」
「何でだよ! スプーン曲がってもラプソーンは浮いたままだぞ!?」
「じゃあ『ラプソーン、痩せれー』」
「余計な世話じゃねえかな!?」

 少しばかり人選を誤ったかもしれない、とわき起こった不安を払いのけるかのように、レティスはふるり、と大きな身体を揺すった。




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2016.07.19