エイトくんと石つぶて どうやら「石」は武器の範囲には入らないらしい。 ヤンガスがそうと気が付いたのは、兄貴分である少年が、拾い上げた石を器用にモンスタに向かって投げていたからである。見ようによればそれは武器であるだろうし、あるいは道具とも考えられる。けれど彼がそれを投げたところで、自身が申告していたような、周囲の仲間に被害が及ぶ結果にはなっていないのだ。 石は投げられるんでがすね、とふと思ったことを口にする。弟分からの言葉に、拾いあげた石を手にしたまま、少年はきょとんとしていた。 「え、だって、石じゃん」 「あ、ええ、そうでがす、石でがすね」 「石は投げられるだろ」 確かに。投げることが可能という意味であるなら、その通りなのだけれど。 「や、兄貴、武器使えねぇっつーから、石も駄目なのかなーって」 そう言うヤンガスへ、けれどエイトは眉間にしわを寄せたまま首を傾げるのだ。 「石は石だろ。武器じゃねぇし」 そして道具でもない。 だから投げて敵を倒すこともできるのだ、と。 まるで空に太陽が浮かんでいることと同じレベルで、当たり前のこととして彼は語っている。 武器や道具と、ただの石と。どこにどのような線引きを行っているのかは分からないが、実際彼が右手を閃かせて投げたそれは、ふたりの行く手を遮るモンスタの眉間へと命中するのだ。 「ほら、投げられるだろ?」 その点については異論はない。 確かに投げている。しかも、コントロール抜群だ。「すげぇな、俺」と本人すら驚いているレベルである。 「MPも使わねぇし、たくさん投げられるし、しばらくこれで凌ぐべ」 「ああまあ、そうでがすね。石ならたくさん落ちてるでげすしね」 もともとあまり頭を使うことには向いていないのだ。 まださほど長い付き合いではないが、この少年兵士の思考回路が特殊な域に達していることはなんとなく分かる。つまりは、あまり深く考えずに流しておいたほうがベターだ、ということなのだろう。 もしかしたら少年が石を武器だと認識した瞬間から、道端に落ちているものですらこちらに向かって飛んでくるようになるのかもしれない。 滝の主の魚相手にも、エイトはひたすら石を投げている。 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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