エイトくんとクエスト手帳


「トラペッタの宿に変なもん置いてあると思ったら、このためだったのか……」

 教えてもらったカメラ機能、撮ってきてもらいたい写真一覧を眺めて、エイトはしみじみとそう呟く。前に来たとき(具体的には言わないが、大体十一年くらい前だった)にはあんな金色のスライムなんてなかったはずなのだ。
 とりあえずキメラのつばさを活用して戻り(スキルポイントは格闘に全振りであるためエイトにルーラは使えない)、クエスト手帳にある写真を撮っていく。なかなか視点の移動が難しく、これだ、という写真が捕えられない。

「兄貴、リーザス像も撮ってこいってあるでがすが、行きやすか?」
「……それはめんどくせーから、四人に増えてからにしよう」

 だからそういうメタ発言は、とヤンガスが言っているが、聞こえないふりをしておく。旅を進めるには、都合のよいものしか見ず、都合のよいものしか聞かないという技も必要なのである。でなければ、家主の目の前でタンスを漁ったりツボを投げ割ったり、できるはずもない。

「……お? ヤンガス、なんか面白そうなクエストがあるぞ」

 どれでがすか、と覗きこんでくる彼に見えるように手帳を広げ、指さすその先。

「プリン、って、あのプリンでがすか」

 それはトラペッタ地方の平原に現れる巨大な魔物、らしい。スライムをたくさん倒せばたまに現れる、と。しかも強敵だとか。

「戦うのは止めといたほうがいいでがすかね」
「そうだな。とりあえず写真だけとって、戦うのは四人に増えてから」


 むしろ写真を取りにいくのも四人に増えてからのほうが良かった、とプリンのような巨大スライムに突撃をかまそうとする少年を必死で押さえながらヤンガスは思っていた。




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2016.07.19