エイトくんと指ぱっちん マイエラ修道院の金のスライムが見つからない。 いや、それはいい。あとでゆっくり探せばいい。それよりも、だ。 二階の、窓から、指ぱっちん。 ぽかん、とした顔で上を見上げ、正面に視線を戻し、また上を見上げ。 青い服をきた油断ならなそうな表情の男は既に消え去っているけれども。 「俺も! あれ! やりたい!」 振り返って、後ろにいた仲間に全力でそう主張したら、「うるさい」と殴られた。 「でもだって、あれ! 指ぱっちん! あれなに、超かっこいい!」 額の広さと髪型と、指ぱっちんに気を取られ、彼が何を言っていたかまるで頭には入っていない。とにかく指ぱっちんだ。一体なんのためにあの仕草をしたのか、エイトにはまるで分からないのだ。何かを呼んだのだろうか、それともこれから喋りますよという合図だったのだろうか。その意味の分からなさがまたかっこいい。 「さあ行くがいい」 青い男の真似をして指をぱちん、と弾いてみるが、あんなにも乾いた音は響かなかった。 「なんでだよ、音ならない!」 場所が悪いのだろうか。二階から下を見下ろさないとだめなのか。 「あ、それとも服装? 青くないとダメ? 上着脱ぐ?」 肩に下げたカバンを弟分に押しつけ、黄色いチュニックを脱ぐ。ポケットの中にいたトーポは一体何事か、と驚いた顔をしてゼシカの肩に避難していた。 「さあ行くがいい!」 もう一度、指を弾いてみるが、かすん、と皮膚の擦れる微かな音が響くだけ。 「……なあ、俺がM字になっても俺としゃべってくれる?」 「いや別に、M字ハゲに偏見があるわけでもねぇでがすし、髪型ぐれぇで無視はしねぇでげすけど、剃り込み入れても指ぱっちんができるようになるわけじゃねぇと思うでがす」 「え!? じゃあ何? 何したらあれ、できるようになんの?」 あんな風にかっこよくぱちん、と指を鳴らしてセリフを言う機会が、もしかしたら今後出てくるかもしれない。ストーリィ上、外せない要素になるかもしれない。そのときのために是非とも今の内から練習しておかなければ。 「一体俺に何が足りないの!?」 ぱすん、かすん、とまるでならない指を何度も弾きながら叫ぶエイトの脳天へ、「おつむの中身でしょ」とお嬢さまの鉄拳制裁が下った。 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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