エイトくんとククールさん ドニの町でも金のスライムが見つからない。 いや、それもいい。あとでゆっくり探せばいい。それよりも、だ。 「……ごめん、ゼシカ、そろそろ俺、限界」 赤いマントと銀の髪を揺らして去っていった男の姿が見えなくなったところで、とりあえずそばにいる女性へそう断りを入れる。気が強くて猪突猛進な彼女ではあるが、魔法使いの卵というだけあり、かしこさはとても高い。理解スピードも早く察しもいいため、短いつきあいとはいえ、彼女はエイトという少年の性格を既に把握してしまっていた。 「存分にどうぞ」 静かにそう許可されると同時に、「あはははは!」と小さなパーティのリーダは腹を抱えて笑い出す。 「見た? ねえ、ゼシカ、見た? あの手! 指! 手袋咥えた! やべぇ、イケメン超怖ぇ!」 一体何が少年のツボに入ったというのか。 指輪を押し付けて去っていった青年の一挙一動が面白かったようで、一つ一つを真似しながら爆笑している。 「あーもう、絶対『※ただしイケメンに限る』だよ! あの顔じゃねぇと許されないよ!」 とても気障たらしい仕草であったのはゼシカも認めるところだ。山奥の村とはいえ、ゼシカも一応は由緒正しい家柄の娘、それなりの血筋の貴族と顔を合わせることもあり、そういった人々にはあのような言動を取るものもいなくはない。さすがにあそこまで「軽い」タイプはいないけれど。女性を女性として扱う術に長けているのだろう。 そして認めるのは腹立たしいが、彼はその言動が、仕草が、とても似合っていた。エイトの言うとおり「ただしイケメンに限る」が適用されているのだ。彼の顔が整っていたことは、ゼシカだけでなくエイトも理解はしているらしい。 この少年はとある城の兵士であるそうだ。先ほどの赤い男のようなタイプとは縁遠かったのかもしれない。あるいは箸が転げても笑える時期なのか。さすがにここまで笑われるとかの青年が気の毒になってくるが、同情してやる必要もないか、と思い直した。どうせ顔を合わせたとしてもあと一度。指輪を返してはいさようなら、だ。 「さ、ほら、エイト、笑ってないで行くわよ」 まるで笑えない出来事を経て結局イケメン僧侶は行動を共にすることになったが、まず最初に「もっかい、ドニのときみたいに名乗って」と少年リーダにねだられ、彼に向かって拳骨を繰り出していた。 「冗談はさておき、ククール仲間になったからいろんなとこ行きたい放題だ、まずリーザス像の写真撮りに行くぞー」 「…………あれ? オレもしかしてルーラ要員?」 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
|