エイトくんとチーズ


「なんかどっかの城についたけど、思い出したから一旦トラペッタ戻るぞー」

 かなり長い道のりを歩いてやってきたというのに、到着した途端リーダはそんな号令を出す。「戻るぞー」も何も、移動魔法はククールしか使えないため、「さっさと唱えろ」という命令に他ならない。

「何か用でも残ってたでがすか?」

 ヤンガスの問いかけに、「チーズが俺を呼んでるぜ!」と少年リーダがポーズを決めて宣言する。彼の上着のポケットから顔をのぞかせているネズミも、似たようなポーズを決めて鳴き声をあげていた。聞けば随分長い間飼っているペットらしい。共に生活する時間が長ければ、自然と似てくるものなのかもしれない。
 そういやそうでげしたね、とヤンガスが相づちを打つ。どうやら目的地は既に決まっているようだ。
 トラペッタ周辺の魔物くらいなら、何の準備もせずに対面したところで困ることもないだろう。弊害があるとすれば、くしざしツインズの見た目に驚いてエイトが泣きだすくらいだ。
 ドラキーやスライムたちと接触しないよう平原を歩み、そうしてやってきたのは丘の上にある一軒の小屋。よくこんなところに小屋があるって知ってたわね、というゼシカの疑問に、「知ってるひと多いと思うよいろんな意味で」とエイトは笑っていた。

「赤い葉っぱの木……あれか!」

 小屋の住人から頼まれた荷物の回収、目印は赤い葉をつけた木だそうで、丘の上からぐるりと視線を巡らせたエイト(「3DSってカメラの操作性悪くね?」とぼやいていたが聞こえなかった振りをしておいた)がある方向を指さして叫び声をあげる。
 確かに一本だけ、すべての葉が赤い木が立っているのが見えた。徒歩で行けるだろうが、少し距離がありそうだ。めんどくせぇなぁ、とため息を吐いたククールのそばで、「よっしゃ行くぜ!」と気合を入れたエイトが、木に向かって一直線に丘の斜面を駆け下りようとしていた。

「え? あれ? 行け、ない! なんで!? 俺はあっちに! 行きたいの!」

 上ってきた道は赤い木を正面に見た場合右手側に伸びており、エイトが進もうと試みている箇所は道すらない急斜面。そちらに足を踏み出すのはひとの運動能力的に(そしてシステム的に)不可能だ。「ほら、行くわよ」とゼシカ嬢に声をかけられ、ククールはじたばたと暴れるリーダの首根っこを捕まえた。

「道を歩きなさい」

 そうして下りたはいいものの、木のある方角を地図で確認するのを忘れており、一行はしばらくくるくるとあたりを見回す羽目になる。




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2016.07.19