エイトくんとプディング


「プリンだぁあああ!!」

 折角四人でトラペッタ周辺に来たのだから、と一度は突撃を諦めたモンスタへ挑むことにした。
 プリン、とにかくプリンなの、というエイトの説明ではその容貌はまるで伝わってこなかったが、実際その姿を目にし、ゼシカとククールは顔を見合わせて、「あーこれは……」「確かにプリン、ね」と頷かざるをえなかった。
 スライムプディング、という魔物らしい。

「えーっと、とりあえず戦うのね?」
「手ごわいみたいだけど、このあたりの魔物に比べて、だろうしな」
「四人いりゃあ、なんとかなるかもしれねぇでがすな」

 巨大なプリンを前にそう会話を交わすメンバの間で、少年勇者は目を輝かせて「ぷりん、ぷりん!」と飛び跳ねていた。
 プリン、カスタードプディング。甘くて黄色く、ぷるぷるふるふるのデザート。これが嫌いなひとはあまりいないだろう。こんなにも甘くておいしいものを考えたひとは天才だ、とエイトは常日頃から思っていた(ということに今決めた)。一度は腹いっぱいプリンを食べてみたい、と思っているプリン好きはきっと死ぬほどいるに違いない。殺せんせーだってプリン好きだったし、茅野っちもプリンが大好きだったではないか。あの巨大プリン回は神回だと思う。

「兄貴、よだれ、よだれ」

 弟分がハンカチで口元を拭ってくれるが、エイトの目にはもはや正面にある巨大プリンしか映っていなかった。

「あいつ、連れて帰る」

 装備している武器をそれぞれ構え、今まさに戦闘に入ろうとしていた仲間の間で、エイトは拳を握りしめてそう口にする。

「連れて帰って、ちまちま食う! 魔物だからちょっと傷だったらそのうち治る! つまりあいつが一匹いれば、永遠にプリンが食える、プリンの永久機関だ!」

 なんて素晴らしい考えだろう、あのプリンはきっとそのために生まれてきたに違いない、と力説したが、「発想がえぐい」と僧侶にしばかれた。しかしこの程度の妨害につまづくエイトではない。障害は乗り越えるためにあり、約束は破るためにあるのだ。

「てことでいただきます!」
「あ、」
「ちょっ」
「おま……っ」

 ぱちん、と手を合わせて(食前の挨拶は大事)巨大プリンにとびかかり、その胴体に顔を埋める。べちょん、という音を立ててへばりついたリーダは、しばらくそのまま動く様子を見せなかった。

「あああああにきぃいいっ」
「おばかっ! 見た目プリンでもあれ、スライムなのよっ!」
「うわ、お前ほんとに食ったの!? ぺっしなさい、ぺっ!」




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2016.07.19