エイトくんと月影の窓 「俺よく分かんねーけどさ」 普通ひとが死んだら二年も悲しむものなの? 無神経だったらごめん、と事前に謝ってから紡がれた言葉に、ゼシカははぁ、とため息をついた。彼女が従うパーティリーダは、その生い立ちが特殊、らしい。詳しくは聞いていないが、家族の話題がまるで出てこないためもしかしたら知らないのかもしれないとは思う。 つい先日、兄を亡くしたばかりだ。 そのことを嘆き、悲しみ、絶望に打ちひしがれていた。 そうと知っているからこそ先に「ごめん」と彼は謝罪を口にしたのだろうし、その質問をゼシカに向けてきたのだろう。 「期間が決まってるものじゃないけどね」 それでも二年はさすがに長いとは思う。ひとりでうじうじと嘆くだけなら関わらなければ良いだけだと思うが、国王があれではだめだ。彼の言動すべてに国が、そこで生きる人々が掛かっている。 「王さまだから悲しんじゃだめとか、神父さまだから怒っちゃだめとか、そういうのはないと思うけど、それでもあのままじゃ王さまのためにもよくないでしょ」 残念ながら彼が愛した女性は既にこの世にはおらず、けれど彼はまだ生きているのだ。生きているその時間を、彼は大切にしたほうが良いだろう。 この丘へやってくることがそのためになるのか、と聞かれたらどうだろう、と首を傾げてしまうが、それでも何か手がかりになるものでもあればいい。少なくともキラと名乗った小間使いに頼まれたことは果たして帰れるはずだ。 「まあ、何もしねぇよりはマシでがすよ」 「女性の頼みを無碍にすることもできないしな」 少しでもあの国の王さまの、そして彼を想うひとたちの気持ちが救われたら良い。 その気持ちはきっと間違いではなかったのだろう。 丘の頂上にある廃墟から、月の光が不思議な世界へと誘う。 ハープを奏でる御仁がどこの誰かは分からないが、きっと彼なら、ひとにはできないことをしてくれるに違いない。 突然の出来事、あまりに現実離れした光景にぽかんとしていたリーダが、突如不思議な人物を指さして口を開く。 「銀さんだっ!!」 「中のひとネタはやめなさい」 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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