エイトくん荒野を行く


「船ー。船やー。返事しろー船ー」
「はーい」

 疲れ切った投げやりなククールの言葉に、同じほど投げやりな、どうでもよさそうな声音でエイトが返事をする。右手をあげてのそれに、僧侶がぎろり、と睨みつけてきた。
 情報屋の話を頼りに、置き去りにされた船を探しにポルトリンクの西側をめざしてやってきた。しばらくこの荒野に至る道は通れなかったそうだが、生憎とこちら側へは足を進めていないためその事実すら知らないままである。なんとなく通れないことを知っており無駄足になると思って来なかったとか、そんなわけではない。
 高台から眺めた先に、確かに船のような何かがあることは確認できた。たとえそれが本物の船であったとしても、どうやって海まで運んだらいいのだろう、とかそもそもうごくのだろうか、だとか。いろいろ悩みは尽きないが、考える暇があるのならとりあえず実物を見てみよう、と荒野を彷徨っている。

「いつからお前は『船』って名前になったんだよ」
「ククールのひとり遊びが可哀そうだから返事してやったんだろ」
「余計なお世話だ。エイトにだけは『可哀そう』って言われたくねぇよ」

 一番可哀そうなのはどう考えてもお前の脳味噌だ、と言ったあとに、彼は「ああそうか」と何か思い至ったかのようにぽむ、と手を叩いた。

「可哀そうになるだけの脳もなかったな」
「おう、クサレ坊主。喧嘩売ってんのなら買うぞ?」
「んだよ、脳筋バカ。喧嘩買う脳味噌はあるっつーのか」

 ただひたすらと何もない荒地を進むのに、少々飽きが来ているのかもしれない。よく次から次にお互いへの罵倒がでてくるなぁ、とヤンガスなどは感心するくらいである。

「ああもう、余計なこと喋らすんじゃねぇよ」

 口の中に砂が入る、とククールが文句を言えば、「お前が黙れば俺だって黙るっつーの」とエイトが言葉を返した。そこから黙るのはお前のほうだろ、お前だろ、という中身のない言い合いに発展していく途中でヒュン、と彼らの間を切り裂く鋭い刃があった。
 正確にいえば金属でつくられたものではない。鋭く尖った氷の刃だ。

「どうせなら、ふたりとも、永遠に黙らせて、あげましょうか?」

 額に青筋を浮かべ、生み出した魔力を冷気へ変えてふたりの男へ向かって解き放つ。どうやら下らない言い争いが聞くに堪えかねたらしい。
 もう少しずれていたら氷づけにされていた、という事実に気がついた馬鹿ふたりは、青ざめた顔で口元を引きつらせ、両手をあげて降参のポーズを取っていた。

「さーせん」
「黙ります」

 たぶん、彼女がパーティ内で最強なのだろうな、と思うと同時に、だからこそまとまりのないメンバでもこうして旅を続けていられるのだろう、とヤンガスは結論付けていた。




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2016.07.19