エイトくんといばらの城 見慣れているはずなのに、知らない場所のようだ。 エイトなどはまだいい、拾われてこの城で世話になっていた身である。もちろん思い入れは大きく、呪われた光景に悔しさも悲しさも怒りも覚えるが、主であるトロデ王の心情を思えば、己の感情などちっぽけなものだ。 先祖代々受け継がれてきたものが、かの王にも、そして王女にも流れている。そういった過去をすべて背負って立つからこそ、王族という存在は気高く、美しく見えるのではないだろうか。過去の人々の想いはとても重たいものだ、とエイトは常々思っていた。それを背負っているものは、しっかりと地面に足をおろすことができている。だからとても強い。多少の波風では揺るがない強さがある。 エイトには過去がない。あるのだろうけど、失くしてしまった。 だから軽い。軽くて、弱い。 けれどきっと、その「軽さ」が必要なときもあるのだろう。 「別に祈ったからってなんかこいつらが助かるわけでもねえよなあ」 オレの気休めさ、と嘯く僧侶は、少し重たい。彼もまた過去を持ち、そして人の想いを背負っているからだ。 見た目はとても軽薄で、言動も軽薄な男はそれでも、やはり僧侶の力を持つだけあり心の奥底に優しい温かさを持っている。敢えて隠しているのかあるいは彼自身気が付いてさえいないのかもしれないそれが、ときおりひょこんと顔をのぞかせるのだ。 両手を組み目を閉じる姿はひどく温かく、そして綺麗だった。 「俺の、気休めにもなってる」 ありがとなククール、とその肩に触れると、解いた手のひらでくしゃり、と頭を撫でられた。生きているものの手のひらは温かい。茨になってしまっている見知った顔の人々は、温もりはほんのりあれど、ちくちくととても痛いのだ。 「……でもどうしてエイトだけ無事だったのかしらね」 呪われた城の惨状を見て、ようやく今までトロデ王やエイトが口にしてきたことを現実のものとして捕えられるようになったようだ。少し血の気の失せた顔をしながらも、決して逃げまいという決意を固めた少女が不思議そうにそう疑問を紡ぐ。 「そりゃあ、兄貴でがすから」 「理由になってないでしょ。呪いが発動したとき、エイトもこの城にいたのよね?」 茨に覆われたときの記憶は、正直あまり残っていない。気が付いたらこの状態だったのだ。 「仕事してたからな。城の上、バルコニー? テラス? あの辺にいたと思う」 その日の警備担当があのあたりだったのだ。いつものように使えもしない剣を持って、不審者がいないか、騒ぎが起きていないか見張っていた。 「奇跡、って言葉で片付けたくはねぇな」 なんとなくだけど、と知識の豊富な僧侶が呟く。奇跡的に、あるいは偶然ではなく、きっと何らかの理由があるはずだ、と。それが分かればもしかしたら、この城の呪いを解くための手がかりを得られたりしないだろうか。 エイト自身が理解していないようなことを探るのは難しいのでは、などという議論の夢中になっていたため、彼らはしばらくリーダである少年が突然目を輝かせてあらぬ方向へ駆けていったことに気づかなかった。 フラワーゾンビがあらわれた! フラワーゾンビは自分の歌に酔いしれている! エイトくんがあらわれた! エイトくんはフラワーゾンビに歌唱力勝負を挑もうとしている! 「……とりあえず奇跡的なバカ、ってことだけは間違いねぇんだけどな、あいつ」 「あ、はぐれメタル! はぐれメタル発見した!」 「なんですって!?」 「追いかけろエイト、逃がすなよっ!」 「さすがはぐれメタルでがすな。みんなレベルアップしたでがす」 「そろそろメラミくらい覚えたいんだけどなぁ」 「お、エイト、オレ、ザオラル覚えたぞ」 「おー、おめでとう。良かったな、カリスマ、お前の存在価値ができたぞ!」 「……ほんと、お前の中でオレがどう扱われてるのかよく分かるよ」 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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