エイトくんと太古の船 「ククールさん、エイトくんの悩みを聞いてくれますか?」 「嫌だ」 「この間から気になって気になって夜しか眠れないことがあるのです」 「嫌だっつってんだろ。つか寝てんじゃねぇかよ」 「ねえ、この船、どうやって動いてんの?」 嫌だ、と断りを入れているにも関わらず、全力で無視をしてエイトは会話を進めてくる。こういう存在だと分かっていても腹立たしく思うし、結局それに付き合ってやっている自分にも苛立ちを覚えて仕方がない。 どうやってと言われてもなぁ、とククールは己の足元へと視線を向けた。 今自分たちが乗っているものは、大きな船である。太古の世界から存在していたというそれが、時を経て再び海へと戻ってきた。 「あの荒野からここまで来たのはほら、銀さんの『奇跡の力』で納得するとしてさ」 「結局銀さん呼びは固定なのかよ。まだ昔のヘチマ売りのほうがマシだったな」 「海に来るまでに銀さん、帰っちゃったじゃん? したら、今はこれ、どうやって動いてんの?」 少年の抱く疑問はもっともなことだ。自由に進む方向を決められるこの船の動力源は一体なんだというのか。帆を張っていないため、風でどうにかなっているわけでもないとは思うけれど。 「あのわさわさ、誰かが動かしてんの?」 船べりから側面を覗きこんでエイトは首を傾げている。「わさわさ」というのが何かが分からず、同じように視線をのぞかせ、「櫂のことか」と納得した。あれを櫂と呼んでいいのかは分からなかったが、エイトの言葉どおり「わさわさ」と動いている。あれで船が進んでいることは間違いないだろう。 「それはたぶん、深く考えたらいけないことなんじゃねぇかな」 つっこみを入れてはいけない部分、というのが世の中には多々あるものだ。それはそういうものとして享受しておいたほうが幸せなこと、だ。 そう言ってみるも、少年は気になるようで。 「だったら下行って確かめてきたら?」 オレは絶対行かねーけど。 悩んだ末、やはりどうしても知りたかったらしい。 恐る恐る船の下部へ様子を窺いに行った少年がふらふらと戻ってきたとき、「ボク、ナニモ、ミテナイ」と片言で報告していたのは演技、だと思いたいところである。 ブラウザバックでお戻りください。 2016.07.19
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