エイトくんとキラーパンサー


 バカがキラーパンサーの背中にへばりついたまま、離れない。

「……置いて行こう」
「そうね、先を急ぐしね」
「兄貴ぃいいい、おりてくだせぇよぉおお」

 これから向かう予定のサザンビーク国は、同じ大陸の東にあるそうだ。そちらに向かっている途中で、大きなキラーパンサーの頭を見つけた。興味本位で寄ってみたらどうしてだか頼みごとをされ、さっさと済ませてしまおう、と貸し出されたキラーパンサーの背中にしがみ付いているところである。
 四つのキラーパンサーの石像は写真クエストの対象にもなっていたはずだ。平原をかけながらカメラにおさめているうちに、夜が更けていく。

「あっ! あれ! みんな、あっち!」

 声をあげたリーダが指さしたその先には、うっすらと光り輝いている巨木があった。

「あれね、明け方にしか現れない木って」
「いや、見つけたのはいいけど、どうやって行くんだよ、あそこまで」
「この辺、入り組んでてすぐには行けそうもねぇでがすよ」

 夜が明けると消えてしまうのだ。急ぎ木の元までいかなければ。
 焦る心のままキラーパンサーを走らせ、どうにか木のある窪地にまでやってきたというのに。

「さっきまでは、あったのにぃぃぃ……」

 東の青い空には太陽が顔をのぞかせており、不思議な木はきれいさっぱり消え失せてしまっている。なんとなるこうなる気はしてた、と赤い僧侶が額を抑えてため息をついた。

「兄貴、どうするでがす? 一旦どこかの町に戻るでがすか?」
「そうね、今夜が明けたばかりだもの。これからまた明け方までは結構時間あるわよ」

 ヤンガスの言葉にゼシカが頷いて同意を示す。彼女の言うことももっともではあるのだが。

「……町に帰って夜まで待って、また明け方までにここにたどり着く自信が、ない」

 地図を見ながら進んではきたのだけれど、意外に行き止まりが多くて思ったように進めなかったのだ。ぐすん、と鼻を啜って俯いた少年を前に、ここの地での一泊が決定した。

 古き友のために、と手渡されたものは「深き眠りのこな」。その名前、ラパンの話した内容から、ククールなどはなんとなく想像をつけていたらしい。両手を組んでそっと祈りを捧げる姿に、声をかけるのをためらってしまう。
 そんなエイトに気がついたようで、どうした、と視線だけで問われた。うん、と頷いて、「あのさ、」と小さく首を傾ける。

「もしかして、今のあのバウムレンってキラーパンサーってさ」
 死んでたの?
 友を導いてほしいということだったから、エイトはてっきりラパンの元へ連れて行くのだとばかり思っていた。けれど、あのキラーパンサーは眠りの粉を浴び、天へと昇ってしまったのだ。
 疑問を口にする少年の頭を、僧侶はくしゃりと撫でただけで、結局何の返答もないままだった。




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2016.07.19