エイトくんと不思議な泉


「冷たくておいしいわよ、エイトも飲んでみたら?」

 呪いを解く効果があるという不思議な泉の水。ミーティア姫にかけられたそれはあまりにも強く、ほんのわずかな時間しか呪いを打ち消すことはできないけれど、それでも効果があることだけは確かだった。
 底が見えるのではないかと思うほど透き通った水は、呪いを受けていないものにも涼やかな気持ちよさをもたらしてくれていた。木々の覆い茂った森のなかというのも、清涼感を覚える一因となっているだろう。目に映る緑、香る森の匂いに、魔物との戦闘で疲れた心が洗われるようだった。
 ゼシカに促され、興味もあったため、泉の水をすくって口に含んでみた。確かに冷たくて、すぅ、と喉が冷やされる。水であるため味についてはよく分からなかったが、きっとおいしいと言っても間違いはないだろう。
 そう判断し、「うまいね」と言おうとしたところで。

「エイト?」

 どうした、と尋ねてくるのは、周囲をよく観察しているのか、あるいはひとの機微に敏感なのか、無駄に察しのよい僧侶だ。わずかに顔をしかめたエイトに気がついたようである。いや、と首を傾げて腹を押さえた。なんだか胃のあたりにもやもやとした感覚があったのだけれど、考えているうちになくなってしまった、ような気がする。

「何でもない。水が冷たすぎたのかも」

 自分でも原因が分からず適当にそう口にすれば、ふぅん、という返答ののち、「腹壊すなよ」と注意されてしまった。前から思っていたが、この男はエイトのことを子ども扱いしすぎている。これでもちゃんとトロデーン国で一兵士として任に付き、生活していたのだ。そこまで子ども扱いされる謂われはない。
 と、胸を張って主張してみるが。

「だったらとりあえず、道歩きながらドングリ拾うの、やめろ」

 拾ったドングリに圧迫され、トーポが大変に迷惑そうである。




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2016.07.19