やるなら完璧に、だろ? ひょんなところからひょんなものを手に入れた。 今日はクリスマスイブ。 となれば。 がちゃ、と部屋の扉が開く音がし、同室人が戻ってきた気配に振り返る。ない頭で考えに考えた末、これだ! とひらめいたポーズで待ち構えてみたが、エイトを見るなり男は綺麗な青い目を細めて顔を引き、ぱたりとドアを閉めてしまった。 「……ありゃ」 部屋に入ってこようとすらしない僧侶に小さく声を上げて眉を下げる。また呆れさせてしまったらしい。いつものことであるためさほど気にしてはいないが、つまらなくはある。 「可愛いと思ったんだけどなぁ」 唇を尖らせ己の服装を見下ろしたところで再びがちゃり、とノブの回る音。 「エイト、オレが戻ってくるまでその格好でいろよ」 絶対に脱ぐな、とそれだけ言って男はまた出て行ってしまった。不評ではなかったようだが、言葉の真意が見えず首を傾げる。従わない理由もなく別にいいけど、と呟き、ひとまず赤い僧侶が戻ってくるのを待つことにした。 一刻もしないうちに戻ってきたククールは、手に小さな紙袋を携えている。それが何か説明することなく、僧侶は少年リーダの姿を頭の頂上から足の先までじっくりと眺めた。 「で、どうしたんだ、その服」 ようやく一番突っ込んでもらいたかった部分を的確に言葉にされ、エイトは嬉しそうに笑みを浮かべる。 「拾った!」 胸を張り何の後ろめたさも戸惑いもなく言い切られた言葉に、ククールの口からはあぁああと大きなため息が零れるのも仕方がないだろう。 「………………確かに、拾い食いはすんなとは言ったが、拾い着用をするなとは言ってなかったな」 言っとかなきゃだめだったかな、と呟く男の背を「まあ気にすんなって」と元凶が叩いた。オレは気にしないがお前は気にしろ、と言ったところでこの脳足りん兵士には理解してもらえないだろう。もう一度零れそうになったため息を気力で呑み込んでおく。吐き出す息とそのためのエネルギィが勿体ないと思った。 けふ、と小さくせき込んだあと壁際のベッドに腰を下ろし、目の前に立つエイトの姿へ視線を向ける。 「クリスマスイブにそんな服拾って、疑問すら抱かず着てみて『今ここ』状態なんだな、お前は」 一般常識を持ち合わせたものなら、そしてごく当たり前の羞恥心を持っている男ならばまず着てみようとは思わない、そんな、膝上丈のミニスカサンタ服なんて。華奢な彼だからこそ着ることができるのだろうそれは、胸から腹にかけてのフロント部分が紐の編みこみリボンになっており、少し変わったデザインだ。その構造が上手く理解できなかったのか、途中まで紐を通しただけで放置されている。 「着方も分かんねぇくせに」 「スカートって部分さえ理解してりゃなんとかなる」 「そこを理解した上で着れるお前の頭が理解不能だ」 そう返しながらも手を伸ばし、中途半端だった編みこみを完成させて臍のあたりで白いリボンを結びあげておく。 「おお!」 揺れるリボンに歓声を上げ、くるりと回ったエイトは「可愛い?」と首を傾げた。 「寒そう」 ワンピースの上半身はキャミソールタイプで、肩や腕は素肌を晒している。ここが温かな宿の部屋であっても、肌寒さを覚える姿だ。 端的に感想を述べれば、少年は頬を膨らませるという分かりやすい方法で拗ねてみせた。ハムスターのようなその顔に喉の奥で笑いながら、おいで、とエイトを呼ぶ。 細い腰へ腕を回し「まあ可愛くないわけじゃねぇけどな」とククールは言った。正直見た目だけを言えば十分に可愛いと思う。色々な欲目が働いてはいるだろうが、とりあえず今夜はこの服装のままベッドに連れ込みたい、と思う程度には可愛らしい姿。 しかしこういった服は恥じらいに頬を染めながら着るからこそ、その魅力が引き立つというものだ。この兵士はネタになると思えば、女装だろうが着ぐるみだろうが全身タイツだろうが喜んで飛びつく残念な頭の作りをしている。そこに恥じらいなどというものが存在しているはずがない。求めればきっと可愛らしくもじもじしてくれるだろうが、悲しいかなそれが演技であることを知っているため興奮もなにもあったものではなかった。 しかし今日はクリスマスイブ。どこぞの神の生誕祭前日であり、正直その宗派ではないため関係ないといえば関係ないが、折角のお祭りに便乗するのもひとつの手だ。もっと可愛くなるアイテムをやろう、と紙袋をエイトへ手渡す。中身は先ほど購入してきたもので、その前に、と目の前にあるふわりと広がるスカートの裾をひょいと捲りあげた。 「……何やってんだ、エロ僧侶」 「スカート捲ってる」 眉を寄せたエイトの言葉に事実を簡潔に述べ、やっぱりな、と頷く。さすがにずっと捲られたままは嫌だったのだろう、ぺし、とククールの手を払いのけたエイトを見上げ口元を歪めた。手渡した袋を示し、開けてみろと促す。 怪訝そうな顔をしたまま素直に従ったエイトは、紙袋の中を覗き込んで首を傾げた。一見では分からなかったのだろう、手を入れてそれを引っ張りだし、袋を放り投げて両手でつまむ。 「………………」 「可愛いだろ?」 時間があればもっと凝ったデザインのものを探すことができたのだが、この短時間(エイトがサンタコスプレに飽きる前に戻りたかったのだ)ではそれが限界だった。 「お前は良く恥ずかしげもなくこんなもんを買ってこれるな」 「恥ずかしげもなくミニスカサンタを着てるお前に言われたくねぇよ」 エイトがその手にしているものは、レースのあしらわれた女性ものの下着である。そこまで際どいデザインでないのは、エイトならばエロティックなものより華美でないもののほうがきっと似合う、というククールの判断と、ぶっちゃけていえば趣味である。 「やるなら完璧に、だろ?」 それを履いたらもっと可愛くなるぞ、とにっこり笑って言うが、「誰が履くかっ!」とエイトはそれをぺい、と床へ放り付けた。スカートは履けても、下着はさすがに恥かしいらしい。頬を赤く染めてククールを睨む少年を目にし、口元が歪む。 その顔が見たかった。 そう、恥ずかしがってもらわなければ意味がないのだ。しょうがねぇなぁ、と言いながらエイトの腕を強く引く。不意打ちの力に逆らえず、バランスを崩したエイトはそのままベッドへ倒れ込み、少年をよけて立ち上がったククールは床に落ちた下着を拾い上げた。 「ひとりで着られないエイトくんのために、おにーさんが着せてやるよ」 「――――ッ!? いいっ、要らねぇっ! のーさんきゅー! 余計なお世話!!」 「遠慮すんなって、お前とオレの仲だろ?」 「うわっ、ばかっ、スカート捲んな、パンツ脱がすなぁあっ!」 能力的な面を見れば、僧侶であるククールよりも兵士であるエイトの方が腕力は上だ。だから本気で嫌がり抵抗すれば、きっと逃げることは可能なのだ。 それなのにじたばたと暴れはするものの結局ククールの下に組み敷かれたままなのだから、これはきっと心の底から嫌がっているわけではないのだろう、と勝手に解釈して、鼻歌交じりにその足から男のものの下着を抜き取った。 今日は楽しいクリスマスイブになりそうである。 ブラウザバックでお戻りください。 2011.12.24
エイトくんサンタはプレゼントをもらう専門らしいです。 |