彼らのルール」の続き



画期的解決策


 何だかリウがごたごた考えているようだったので、こっそりと彼のいない時に他の幼馴染二人に聞いてみた。
 曰く、

「まあ、確かに普通は一緒に寝ないかもね」
「普通は、な」

 レッシンの質問に、顔を見合せてマリカとジェイルはそう答える。

「でも、あんたたちはそれでいいんじゃない? こっちももうずっと前からそうだったの知ってるし」

 今更実はまだ一緒に寝てます、と白状されたところで、とりたてて驚くこともない。むしろこの城に移ってから二人が違う部屋で眠っているということに疑問を抱いたくらいだ。

「あんたたち自身がそれでよく眠れるなら、あたしは一緒に寝ててもいいと思うんだけど」

 小さいときはマリカも同じ布団で眠ることがあったし、夜レッシンの部屋へ遊びに行くと、そのまま適当に雑魚寝をして朝になることもある。

「だよなぁ。オレもそう思うんだけどさ」

 リウが、と続けられた言葉に、二人は小さく頷いて納得する。そもそもレッシンがこの程度のことを気にするはずがないのだ。いつ、誰が、どこで、どのように過ごそうが、それらが自分に関係ないことであれば全く気にしない、同様に、自分がどうしようが、迷惑にならない限り他人の目を気にすることはない。そういう、ある意味自分勝手とも見れる強さを持った人間なのだ。

「リウは気にするでしょうね」
「レッシンの立場が立場だからな」

 口や表情以上に、リウの頭はよく回る。だからこその参謀役なのだが、役割故に気にしてしまう事柄も多いのだろう。

「リウのためにも、あまり人に話さない方がいいだろうな」

 高だがその程度のことでレッシンの人格批判をし出すような輩はそもそも仲間にはいないはずだが、それでも可能性の芽は摘めるだけ摘んでおいた方が彼も安心だろう。

「そうね。どっちかが女で、恋人同士ならまだしもね」
「恋人なら一緒に寝ててもいいのか?」

 マリカの呟きにレッシンはそう首を傾げる。

「少なくとも、男友達が一緒に寝ているというよりは不自然ではない」

 あまり覚えのいいことでもないがな、とジェイル。その言葉に更に表情を歪めたレッシンを見て、マリカは苦笑を浮かべた。色恋よりも食い気が先にくるレッシンには理解できない話題だろう。

「とにかく、放っておいたらリウは睡眠を削りそうだから、あんたがちゃんと布団に連れ込んであげなさいね」
「そうだな。あれ以上顔色が悪くなったらそのうち風が吹くだけで倒れそうだ」

 幼馴染にそう言われ、当初の疑問はすっきりと解決しなかったものの、とりあえずこのまま一緒に眠るという方向で突っ走ることを決めたレッシンは、「分かった!」と笑って頷いた。






 数時間後、マリカとジェイルがホールで会話をしていると、涙目になったリウが飛び込んできた。いつになく乱れ切った服装で、真っ直ぐに幼馴染二人の元へと走り寄ってくる。

「お前ら、あの馬鹿に何吹き込んだんだっ!?」

 あの馬鹿、とは十中八九レッシンのことだろう。がくがくと揺さぶられながら、「別に何も」とジェイルは答えた。

「嘘だ、絶対嘘だ! じゃなきゃあんな変なこと……ッ!」

 何やら必死にそう言っているが、二人とも本当に心当たりがない。首を傾げながらもとりあえず、「リウ、あんまり揺さぶるとジェイルの中身が出るわよ」とその手を止めさせた。
 どうどう、と動物を宥めるかのようにその興奮を治めさせ、「で、レッシンが何?」と騒動の内容を尋ねる。ぽんぽん、頭をジェイルに、背中をマリカに叩かれて多少落ち着いたらしい彼は、「あいつ、部屋戻って来てからおかしいんだよ」とぐすりと鼻をすすった。

「どうおかしいんだ?」
「へ、変なこと、ばっかり言ったり……ッ」
「何を言われたのよ、あんた」

 具体的なことが分からない限り、レッシンを怒ろうにも怒れない。マリカが尋ねると、その言葉を思い出したのか、ぼ、と火が付きそうな勢いでリウの顔が赤くなった。同時に、「お、ここにいたのか!」と元凶の声。
 びくり、と肩を震わせたリウは慌てたようにジェイルの後ろへとその身を隠した。

「? リウ? 何で隠れるんだ?」

 その姿に首を傾げながらレッシンは全く気にする様子もなく三人の側へと近寄ってくる。

「あんたリウに何言ったのよ」
「何って、別に何も言ってねぇけど?」
「嘘吐くなよ、馬鹿っ!」

 ジェイルの後ろからそう怒鳴られるが、レッシンはますます首を傾げてしまう。どうやらいつもの如く、口にした本人はさほど気にしていない言葉だったらしい。こちらは彼のその一言で思わず逃げ出してしまうほど混乱しているというのに、その姿がますます憎たらしく見えてくる。

「さっき! 部屋の中で! 言っただろ、オレに!」

 んー、と天井を見上げ、うー、と床を見下ろし、腕を組んで唸った後、ぽん、とレッシンは両手を打った。

「ああ、恋人になろう、って言ったこと?」
「わーっ! ここで言うな、馬鹿ッ!」
「はぁッ!?」
「レッシン?」

 顔を真っ赤にしてレッシンの口を抑え込むリウに、驚いて声を上げたマリカ、真意を測りかねて眉を寄せるジェイル。幼馴染たちのその様子に物おじすることなく、リウの手から逃れたレッシンは「だって」と口を開いた。

「マリカとジェイルが言ったんじゃねぇか、恋人なら一緒に寝ててもおかしくねぇって」

 だから、恋人になればリウも気にしなくなるかなって。

 単純だ。
 なんとも、単純で分かりやすい理由。

 返す言葉もないのか、ぱくぱくと口を開閉させていたリウは、涙の浮かんだ目でマリカたちを睨むと、「やっぱりお前らのせいじゃんかっ!!」とその場から走り去ってしまった。

「……いや、っていうか、さすがにその発想はなかったっていうか……」
「おれらのせい、なのか?」

 レッシンのぶっ飛んだ思考まではさすがに責任が取れない。リウの言葉に思わずそう零した二人へ、「オレ、なんか変なこと言ったのかなぁ」と相変わらずマイペースな団長が首を傾げていた。

「まあいいや、そろそろ飯だろ。リウ連れてくる」

 夕飯は出来る限り四人で取る、というのが、この城を本拠地としたときからの暗黙のルール。食堂でな、と言い残してリウを追いかけて行ったレッシンを見送って、マリカとジェイルは顔を見合わせることもなく同時にため息を落とした。

「……リウが襲われるに100ポッチ」
「おれはリウが流されるに150ポッチ」

 レッシンが去ったあとに二人がそんな会話を交わしていたことなど、彼は知る由もない。




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2009.01.24
















リウ、可愛そう(棒読み)