森の外の世界はきっとすごく綺麗なのだろう。
 そう思い込んでいた。
 飛び出してすぐそれがただの幻想であったことを知ったが、だからといって幻滅をするわけもなく、掴み取った自由だけは手放すまいと必死だった。
 彼らに出会い、まだ残っていた、とそう思ったものだ。
 きらきらと輝いて見えるほどの綺麗なもの。
 自分が失ってしまったそれを持つものたちを前に、後悔はあっても羨望はない。
 ただ守りたい、とそう思った。
 彼らの輝きが失われぬよう。
 ずっと輝いていられるように。





   輝ける世界・1





「兄さん方も含め、この城にゃまだ十代の若いもんだってたくさんいるでやしょう」

 環境を守るのは大人の役目であり、出来るなら未成年にはあまり告げたくはない類の話ではある。だからといって彼らの耳に通さずにいられることでもない。まだ十代とはいえこの二人こそが、いつの間にか大所帯になったリュウジュ団を取りまとめるトップと、その右腕ともいえる頭脳なのだから。
 「どうしやす?」と軍議(というほど大したことは話していないが)の場にてホツバが頭を掻きながら言った。

「んー、でも放置ってわけには確かにいかねーしなぁ」

 ひとつの道の協会に対抗するため集まった団、リュウジュ団は団長の性格が故か、その性質はかなり開かれていると思う。本拠地にだって団員以外でもかなりあっさりと入ることができる。(もちろん、城の上の階、団員たちの部屋があるような場所には関係者しか足を踏み入れることはできないが。)
 団の利益を、そして団長の安全を考えるなら問題のある状態だろうが、このオープンで風通しの良い空気をリウは気に入っていた。それでこそ、レッシンがトップである団体だ、とも思う。
 しかし、ホツバが気にするのももっともなことで、彼とは別の経路から同じ話を耳にしていたリウも何らかの手立てを打とう、と考えてはいたのだ。

「まあ、実際には見張りを強化する、見つけたらお引き取り願う、っていうくらいしかできねーけど」

 それでいいかレッシン、と隣に座る団長へ話を振れば、珍しく真面目に聞いていたらしい彼が苦笑を浮かべ、「しょうがねぇよな」とそう言った。

「あんまりキツイ決まりごととかはヤだけどな。さすがに城ん中でそういう商売やられるのは、オレでもどうかと思うし」

 職業で人を差別するつもりはない。商売の気さえ出さなければ他の旅人や商売人と同じように、開放区域への立ち入りは認めよう。しかし少しでも声をかけてきたらアウト、ご退場願うという方針で。
 成人しているメンバにはそのように伝達を、間違っても買うことがないように。どうしても必要ならばこの城の外でお願いします、とリウが纏め、集まっていた各団体の代表たちは揃って首を縦に振った。

 今彼らが話題にしているのは、つい先日城に訪れた人々のこと。圧倒的に若い女性の多いその集団は、自らの体を売って金銭を得る人々の集まりだった。村から町へ流れながら商売をしているらしく、人が集まっているとなれば彼らの商売の格好の的になるのだろう。しかしホツバの言う通りここには未成年者も多く生活しており、彼らの情操教育に明らかに悪影響を与える存在を野放しにはできない。

「わたしのところに来てくれたら、もっと別の仕事も紹介してあげられるんだけどなぁ」

 ひととひとを繋ぐことを生業としているランブル族の姉御が少し寂しげにぽつり、そう呟きを零す。「まあ、ひとには色んな事情があるからさ」とリウは苦笑を浮かべて言った。
 数ある選択肢の中から敢えてその道を選んだひともいるかもしれないが、選ばざるを得なかったひとだっているだろう。自分の身体を道具として使うなど、並大抵の覚悟ではできない。

「だからっつって、そのひとらに同情することはないし、便宜を図ってやる義理もねーけど」

 辞めたいから別の仕事をくれ、というのならば力にならないこともない。しかし、稼ぐために商売をさせてくれという希望に許可を与えることは出来ない。線引きをしっかりと。そう言うリウへ、「まあ、それしかないわよねー」とモアナも頷いて口にした。




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2011.03.07