迷わず飛び込め! タンタンタンタン、と軽い音がリズミカルに響く。持っている武器はサブマシンガンだと言っていたから、単発モードにしているのか、それとも引き金を引く力を加減しているのか。一発ずつ放たれた弾が現れた化け物(化人、というらしい)の頭部、胸部、腹部、脚部を正確に狙う。 「ねぇ、葉佩クン、どうしてそういう撃ち方するの?」 低い唸り声を上げて消滅した化人を確認すると、背後からそう八千穂が尋ねた。部屋にはもう二体敵がいるにもかかわらず、彼女は疑問に思ったらすぐに口にする。そこが良いところでもあり、悪いところでもあるのだろう。 皆守が少し黙ってろ、と彼女を抑える前に、「ああ、それはね」と葉佩が移動しながら答えた。 「どんなものにでも弱点があるんだよん。あいつらもそう。銃に強いやつもいるけど、それでも弱い点がある。たとえばあの包帯ぐるぐるは」 タン、と葉佩が銃を撃つ。随分と下を狙っていると思ったら、どうやら彼は足首部分を狙ったようだ。もう一度タン、と同じ場所を狙うと悲鳴を上げて化人が煙に呑まれた。 「さっきは四発必要だったのに、今はその半分で倒せたでしょ」 言いながら葉佩はその奥に浮いている化人へ照準を合わせた。 「こいつはどこかな、まずは胸」 頭、手、足と呟きながら撃つも、どうやらこの化人は銃に強いらしい。かなりの銃弾を叩き込んでようやく倒したが、結局弱点は何処だか分からないままだった。 『敵影消滅』 声を確認してふう、と小さく息を吐き出してマシンガンをしまうと、葉佩は腰のベルトに下げていた小型機械を取り出した。彼が何かスイッチを動かすと同時に『H.A.N.Tを起動します』という、無機質な女性の声が響く。 「おれら《宝探し屋》の命綱。救援信号もこれで送るし、おれらが生きてるかどうか、本部から確認取れる。必要な情報もここに蓄積されていく」 手馴れた様子でボタン操作し、ある画面を呼び出すとそれを皆守たちへ向けて見せた。 「あ、さっきの」 八千穂が声をあげたとおり、そこには先ほど葉佩が倒した包帯巻きの化人が乗っていた。どうやらあの化人、フユという名前らしい。弱点や攻撃方法まで事細かに情報が書き込まれている。 もう一つ、頭に水槽を乗せていた化人はシホタル。弱点はまだ見つけていないので「?」のままだ。 「本当はこれで確認しながら弱い攻撃法で攻めるのがいいんだけど、そうすると装備品増えるし、おれ銃が好きだからね」 基本は銃なのだ、と葉佩は言った。 「だったら、しょっぱなから弾忘れんなよ」 「いやぁん、皆守のいじわるー。それは言っちゃだめー」 炎が広がっていた階段を上りながらそんな会話を交わし、次の部屋へ続く扉へ葉佩が手を掛けた。 「…………開きませぇん」 「泣きそうな声出すな」 「がんばれ、葉佩クン!」 船の舵のような丸いハンドルを葉佩と八千穂が(嬉々として)回転させ、床をぶち抜いた先に見つけたレバーでようやく先へと進むことができた。 ひび割れた壁を破壊し、鍵の掛かった扉を諦めて更に奥へ進んだところで立ち止まった葉佩が不意に呟く。 「気持ち悪い光景だなぁ……」 彼の後ろから覗き込んだ皆守も、その言葉には同感だった。八千穂だけ「うわぁ!」と感嘆の声をあげている。 「飛び移っていけってことだろうな」 皆守の言葉に葉佩は「そうだねぇ」と顎に手を当てて答える。彼のその返答になんとなく違和感を覚えた皆守は、「おい、葉佩」と名を呼んだ。 「……お前、何考えてる?」 尋ねられた方はそれには答えずに小石をかつん、と蹴飛ばした。 空を裂く音がした後すぐにコン、と下に落ちた音が響く。どうやら奈落というわけではないらしい。それに安堵したのもつかの間。 「葉佩、まさかとは思うがお前」 嫌な予感を最後まで口にする前に、振り返った葉佩はにっこりと笑みを浮かべる。 「『毒を食らわば最後まで』って言うだろ!」 がっしりと二人の腕を掴んだ葉佩はそのまま、闇の広がる下へと飛び降りた。 「葉佩クン、『血まで』じゃなかったっけ?」 「『皿まで』だ、馬鹿二人っ!」 戻る↑ next story→ 2006.12.12
思い切りダイブ。 |