記念すべき一歩目


「おれはおれがすることを誰かに止められるのが好きじゃないから、二人の行動を止めたりしない。けど一応先に言っておくね。
 この装備を見ても分かるとおりおれら《宝探し屋》が潜る遺跡には生身の人間じゃ太刀打ちできない化け物がいる。二人はおれの『バディ』だから、バディの命は何が何でも守るけどおれだって万能じゃないし、自分の腕を過信するつもりもない。怪我をしたくなかったら中では必ずおれの指示に従うこと。一番いいのはこのまま帰ることなんだけど」


 するり、と遺跡へ向かってロープを下ろし、先に一人で下りた葉佩が安全を確認して二人を呼ぶ。スポーツバッグの中から引っ張り出した装備品を手馴れた様子で装着しながら、葉佩は二人へ向かって淡々とそう言った。
 今までとはがらり、と雰囲気の変わった彼に多少驚きつつ八千穂が「だったら尚更葉佩クン一人で行かせられないよ」としょげた顔をする。

「あまり役には立たないかもしれないけど、ちょっとでも葉佩クンを守れたら嬉しい」

 武器としてだろうか、持ってきたラケットを抱きしめて言う八千穂へ、葉佩は「ありがとう」と笑う。
 そして彼はその笑みのまま、あっさり言った。


「でも死んじゃったらごめんね」


 ごめんね、とそう言えば済むことではない。人が死ぬということがそんな簡単な言葉で表されては堪ったものではない。しかしおそらく、葉佩が身をおく《宝探し屋》という立場は、そういう職業なのだろう、と皆守は思う。
 海外暮らしが長いらしく言動が多少異質であること以外、葉佩九龍という男は至って普通の高校生だ。伝え聞いたプロフィールによるとどうも年齢が皆守たちより一つ上のようだが、今のところ気になるところではないし本人も気にしている様子はない。
 しかし昼間の高校生という顔の裏に張り付いていた《宝探し屋》という顔。この目で見なければ信じられなかっただろうが、遺跡に入ったその瞬間から顔つきと雰囲気が変わった。やはり彼はプロなのだ。

 広間にあった十三の扉のうち、開いていたのは二つ。その片方、通路が続いていた方を進みながら皆守は先を行く小さな葉佩の背中を見やる。頭に乗るゴーグルはいつもの通りだが、学ランの下に着込んだベストと腰に下がるナイフとマシンガン。これを見て彼を普通の高校生だと思う人間はいないだろう。
 突き当たりにあった扉を葉佩が用心深く開く。途端響く無機質な女の声に、皆守と八千穂はびくりと身をすくませた。

『敵影を確認。移動してください』

 音源はどうやら葉佩が持つ小型の機械(後で聞いたところ『H.A.N.T』と呼ばれているらしい)。
 葉佩は小さく口笛を吹いてゴーグルの位置を直すと、腰に下げていたマシンガンを構えた。とん、と体重を感じさせない足取りで一歩前に進む。そう遠くない位置に何か小さな生き物が飛んでいるのが見えた。敵、だろう。相手はこちらへ殺意を向けていることがここからでも分かる。

「二人は近づいてきちゃ駄目だよ」

 そう言って葉佩は構えた銃の引き金を引いた。
 が、何故か響くのはカチャリ、という空しい音のみ。「あれ?」と首を傾げた葉佩は、ふと何かを思い出したかのように笑い声を上げた。


「あはは! 弾、入れるの、つーか持ってくるの、忘れてた!」


 ……こいつについていっても大丈夫だろうか、と皆守が自分の判断を後悔したのは言うまでもない。




戻る
next story
2006.11.27
















小ネタ。初戦はコンバットナイフのみで。