目覚めたら ぶっちゃけると、秘宝なんてどうでも良かった。 そう言うと大抵は「ぶっちゃけすぎだ」と怒られるのであまり口にはしなかったが、それが嘘偽りない本音であることは事実。 秘宝なんてどうでもいい。 心躍るは遺跡の奥底に眠るお宝ではなく、むしろお宝を手に入れるその過程。 謎を解き化け物を倒し、誰も足を踏み入れたことのない場所へ。 それこそロマン。 ひっそりと墓守に守られて眠っている宝をロマンなどとは呼ばせない。 ロマンとは、変化に富んだ大冒険。 秘宝が変化に富んでいたり、大冒険であったりするだろうか。 答えは至極完結、Noだ。 だから別にそのときも秘宝自体が惜しかったわけではない。ただ単に人が苦労して(それほど苦労した覚えはないけれど)手に入れたものを、横から奪おうとするその根性にカチンと来ただけだ。しかも己の手で銃を握るわけではなく、大勢の部下にそれをやらせるというところも気に食わない。汚すなら己の手を。それが大前提。 「君が一人ではないということを忘れないでいてもらおうか」 男は車椅子に座ったまま言う。人の上に立ち慣れた、人を見下し慣れたその口調が無性に癇に障る。ちらり、とここまで案内してくれた老商を見ると、彼は銃口を向けられながらも必死で首を振っていた。 「渡すな、渡してはならん」 そう言われてもね、と小さく溜息。 秘宝と人の命と。天秤にかけたらどちらに傾くかなど、迷う間もない。 まだガスHGが三つ残っていた。背後にはたった今出てきたばかりの遺跡。中には化け物が盛りだくさん。 秘宝を渡した隙を突いて一度遺跡の中へ引く。奴らも化け物で溢れる遺跡までは追ってこないだろう、仮に追ってきたとしても化け物どもとやりあってこちらを探すどころではないはず。何しろこちらは一度潜っているのだ。案内人もいるため、地の利はある。たとえ出口を封鎖されたとしてもH.A.N.Tが生きている限り協会から救出部隊がくるのだ。死ぬことはないだろう。 コンマ五秒ほどの間にそこまで考えると、つい先ほど手に入れたばかりの秘宝を取り出そうと、ベストへ手を突っ込んだ。 ぞくり、と沸き起こる悪寒。 咄嗟に遺跡の出口から飛びのいて銃を構える。 死者の怨念は平等だ。相手が善人だろうが悪人だろうが、女だろうが男だろうが、子供だろうが老人だろうが、生者であれば構わず襲い掛かる。 タタン、と乾いた銃声。弾丸は現れた化け物へと真っ直ぐ向かう。その行動で武装した彼らも気づいたのだろう、ひとまずの敵はこの怨念を纏った化け物である、と。 「今のうちに」という老人に促されるまま、砂漠へと向かって走り出す。遺跡の中で彼は、日本に留学している息子がいると言っていた。それが自分と同じ歳くらいだ、と。 もし父親が生きていたとしても、こんな風に砂漠を走り回ったりはしないだろう。つくづくタフな老人だ。タフで博識で面倒見が良くて。 秘宝を手に入れるというミッションはコンプリート。 次なるミッションは、この老人を守り抜くこと。 そう決めると、気合を入れる意味も込めて腹に力を入れた。 まさか目覚めたら自分が高校生をするはめになるとは、このときの彼は予想だにしていない。 戻る↑ next story→ 2006.11.23
はじまり。 |