真っ昼間のニャンデレラ3


「なっ、何だよ、これっ!」
「――ッ、あ、れ? 兄さん?」

 どこぞより湧いて出た煙を払いのけながら驚きの声を上げれば、頭を上げた雪男が燐を認めて口を開く。

「雪男? あれ? お前喋れんの?」
「兄さんこそ……っていうか、耳が」

 しばらく煙が収まるのを待ち、狭いベッドの上に座ったまま向かい合う。一体何がどうなっているのか互いに把握できず首を傾げていれば、「半日も必要なかったですね」という聞き覚えのある(そして正直あまり聞きたくはない)声が室内に響いた。
 アインス、ツヴァイ、ドライ、といつもの掛け声と同時に現れ出たのは、相変わらず正気を疑うような服装センスの我らが理事長悪魔。くつくつと笑う姿に無性に苛立ちを覚え、燐は手近にあった枕を、雪男は分厚い書籍を同時に投げつけた。

「如何でしたか、メッフィープレゼンツ猫の日サプライズは」

 ひょいひょい、とそれらを避けた男は、未だ事態を上手く理解できていない双子を見おろし、楽しんでいただけましたか、とウインクをしてみせる。

「雪男、ほかに何か投げるもんねぇか?」
「兄さん、布団の下、僕の銃があるから取って」

 物騒な会話を交わす双子を前に「おや怖い」と空々しく肩を竦めた悪魔は、それでもにやにやとした笑みを引くことなく言葉を続けた。

「私は十二分に楽しませていただきましたよ」

 まさか互いに数時間で術を解いてしまうとは思ってませんでした、と言われたところで、双子には相変わらず何のことだか分からない。詳しい説明を求めるべきなのか否か。あるいはもう既に異常事態は去っているため、さっさと退散願った方が良いのか。
 悩んでいたところで「お礼に、」と悪魔がその右手を掲げて言う。

「それぞれ猫になっていた時の記憶を戻して差し上げましょう」

 パチン、と指を鳴らすと同時に、シルクハットのピエロは室内から姿を消していた。
 白い煙は現れなかったが、代わりに兄弟の脳内にぶわわ、と入り込んでくる数時間分の記憶。
 猫になった自分の目線、しでかした事柄、猫になった自分へ兄弟がしてくれたこと、語られた言葉。

「ッ!?」
「――――――ッ」

 普段なら決して聞くことが出来なさそうなお互いの言葉を同時に思い出し、双子はそれこそ煙が出てくるのではないかというほど顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。





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2012.06.05
















にゃん、にゃにゃにゃん?
にゃにゃにゃあん!

Pixivより。