桃色の甘い誘惑」、裏の「相違無し」の続きっぽいもの。



   独占禁止法適用外


 個人差はありますから、というのが宿の人間の言葉。確かに薬の効果や魔法の効きやすさ、あるいは呪いに掛かりやすいだとか掛かりにくいだとかは個々人によって異なり、皆すべて同じだとは言い切れない。
 しかし、だからといって。

「一週間はぁーさすがにぃー長すぎるとぉーエイトくんはぁー思いますぅー」

 ベッドにうつ伏せになり、パタパタと足でシーツを叩きながらそう言ったエイトへ、様子を見に来ていた男が一言。

「うざい」

 端的でこれ以上はないと思えるほど分かりやすい感想を述べた。





 パーティリーダが森の中になっている怪しげな果物を口にし、性別転換を引き起こすという前代未聞の惨事(あるいは珍事)を引き起こしてから今日でまる一週間。そういった事態に慣れているらしい宿のものが言うには、三日程度で元の性別に戻るのが普通らしい。
 しかし、どうしてだか少年だったリーダは今日もまだ少女のままだった。

「そりゃあれだろ、頭の中どころか存在自体がもう異次元だから」

 胸のある身体を見せられたときに大爆笑してエイトの怒りを買っていたククールも、さすがに一週間もそのままであればもはやどうでもよくなってきており、このまま出発しようぜ、とまで言う始末。

「でもエイト、前より力、落ちてるんでしょう?」

 その状態で魔物のいる場所を歩くのは危険だ、と頬に手を当ててゼシカが首を傾げる。もともとが童顔で小柄な体格をしていたが、その割に力は強く、パーティの中ではヤンガスに次ぐダメージソースとなっているのがエイトという少年だ。魔法が使えるとはいえゼシカほどではなく、このまま進むのはやはり不安を覚える。エイトの兄貴第一主義のヤンガスは言わずもがな戻るのを待つと言い張り、もちろんククールだってそうしたいのは山々だが。

「実際に戻ってねぇしなぁ」

 ぼやいてちらり、と元凶へ視線を向ける。問題を引き起こしたのが自身とはいえ現状には不服らしく、エイトは先ほどまで「何で戻らないの」と駄々をこねていた。あまりにもうるさかったため、棒付きの飴を与えて大人しくさせておいたが、なくなり次第またなんで、と騒ぎだすだろう。

「兄貴はほら、竜神族の血とか入ってっから」

 もしかしたらそれが影響を及ぼしているのではないか、とヤンガスが推測し、それも一理ありそうだ、とククールが頷く。

「だとしたら一度竜神の里へ戻るってのも手だな。あるいは不思議な泉に行ってみても良い」

 顎に手を添えて考えながらククールが述べ、そうね、とゼシカが相槌を打った。オレンジ色の髪の毛を揺らし、両耳に下がるピアスを揺らして、女魔法使いは言う。

「戻りたくても戻れないような何かがエイトに起こってる、とかね」

 女性の身体でいなければならない理由。なんだそれは、と眉を顰めた男二人を無視し、たとえば、と考え込んだのち。

「…………妊娠、してるとか」

 ぼそり、と呟いたゼシカと、それを聞き理解したヤンガスが、同時に心当たりの方へ視線を向け。

「…………」

 とりあえず二人の視線から顔を反らせ、斜め上あたりを見上げることくらいしかククールにはできなかった。





 ぶっちゃけて言おう。

「避妊はしてない」

 ごす、とエイトの拳が飛んでくるのも仕方のない発言だ。
 とにかくもう一日様子をみて、戻る気配がなければ行動を起こそう、という結論に収まり、他の二人は各自部屋へと戻っていった。ククールも隣に取ってある自分の部屋へと逃げようとしたが、さすがにそうは問屋が下ろさない。バカはバカなりに色々と思うところがあるらしい。

「いやでもだって、さすがに妊娠するとか、思わねぇだろ、普通!」

 強制的に性別を変えられ、その上数日で戻るときた。魔法を掛けられているようなもので、女性としては不完全な状態。そんなエイトがまさか女性としての機能をきっちりと有している、など。
 そもそも今までエイトは完全に男であり、妊娠だのなんだのという問題を考えたこともなかったのだ。突然そのことを意識しろ、といわれても。

「嘘だ、ぜってー嘘だ。ククールがそういうことをスルーするはずがない」

 力説するククールに対し、エイトは半分涙目になってそう言い返す。ずいぶんと買ってもらっていると喜べばいいのか、あるいは過大評価だと謙遜すればいいのか。

「だって、お前絶対他の女のひととかだったら気を付けてるだろ。そういう失敗、しなさそうだもん」

 さすがエイト、腐ってもパーティリーダ。仲間のことはある程度把握していらっしゃる。
 彼(今は彼女、とするべきか)の言うとおり、その手のことに関しては人並み程度には気を付けているつもりだ。今日と明日と明後日のお相手が別人だったということもあるわけで、何らかの間違いがあっては今後の人生に支障を来たす。それだけは避けたくて、いくらねだられても、安全日だからと告げられても、避妊具だけは必ず装着していた。

「…………ちらっと、考えはしたけどな」

 もしかしたら、という危惧をまさか、の一言で振り払った、わけではない。

「まあいっか、って」

 そう思ったのだと口にするククールへ、「無責任すぎんだろっ!」とエイトがベッドの上の枕を投げつけた。更に何か投げるものを探しているらしい彼へ近づき、「今もガキの面倒をみてるようなもんだしな」とその両腕を捕える。

「それが一人増えようが二人増えようが、変わらねぇだろ」

 エイトとの子供なら別にいいか、とそう思った。

 エイトという少年は、生い立ちを含めた一連の出来事のせいで、上手く自分を世界にあてはめられない自我を確立している。はっきりいってそんな人間がまともな家庭を築けるとは思えない。家族とは外から眺めるもので、自分がその一員である、一員になれるということを彼はまったく理解できないのだ。しかし、今エイトは彼ではなく彼女として過ごしており、もし仮に子を授かることが出来るならば自分の腹を痛めて産むことになる。ただ見ているだけの男親ではなく、その体で我が子を感じることができれば、自分の子供なのだ、自分が親なのだという認識を抱けるのではないか。
 さすがにそこまでは口にしないが、それでもエイトとの子供ならば問題はない、むしろ望むところだ。ククールの言葉を理解し、エイトは唖然とした顔でこちらを見上げた。らしくない発言だということは重々承知しており、また彼にとっては思ってもいなかった態度だろうということも分かる。しかし、それがククールの嘘偽りのない本音であり、希望だ。

「オレ、結構ガキの面倒みんの、上手いと思うけどな」

 ベッドへ膝を乗せ、エイトの隣へと座り込む。言葉を探しているらしい小さな少年を抱きしめ、ちゅう、と唇を奪った。

「ん、そ、りゃ、ククール、意外に優しいし、面倒見いいから、」

 子育てとか上手そうだけど、とようやくエイトの口から音が発せられたが、未だ動揺が抜けきれていないらしい。どこかたどたどしい発言に、「意外に、ってのは余計だろ」と苦笑を浮かべる。

「怒ったら怖いけど、後で飴くれるし。機嫌とったり、興味を他にそらしたりすんの、上手いよな」
「……お前、飴で釣られてる自覚はあったんだな」

 自分を子供に置き換えて発言しているらしいエイトへそう言えば、「一応は」と頷きが返ってきた。自覚していてよかった、と安堵するべきか、むしろ自覚するくらいならそういう態度を止めろ、と怒るべきか。
 はあ、とため息をついてもう一度目の前の身体を抱きしめる。少し高めの体温と、今までよりも柔らかな体。外に出るときはゼシカの助言通り晒しを巻いて胸を押さえていたが、苦しくて嫌だ、と部屋の中にいるときは巻いていない。もちろん下着を付けているわけもなく、シャツをめくればすぐにやわ肌が現れる。

「…………お前、何してんの」

 そう意識が向いた時には既にククールの手は行動を起こしていた。

「男の悲しい性だよ。お前も男なら分かるだろ」

 腕の中に、ノーブラの女の子のおっぱいがあるとなれば、愛でたい、と。

「悪ぃ、ぜんっぜん分かんねぇ、むしろ分かりたくねぇ」

 バカじゃないの、と言いながらぺしぺしと銀色の頭を殴るが、彼はエイトのシャツをめくり上げる手を下ろそうとはせず、あまつさえそのままベッドへと体を横たえられてしまった。

「……ククールさん、俺ら今、結構深刻な話、してたと思うんですが」

 話の続きは、と眉を顰めるエイトを見上げ、「大丈夫、オレも今真剣だから」とククールはのたまった。

「だって、本当にお前が妊娠とかしてて、子供とか生まれてみろよ。このおっぱいはオレだけのものじゃなくなるんだぜ?」

 それならば今のうちに目いっぱい堪能しておかなければ、と本当に真面目な顔をして言うものだから、怒るべきなのか呆れるべきなのか分からなくなったエイトは、とりあえず「ほんと、バカじゃねぇの」と笑って男の頬を抓っておいた。




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2010.10.17
















【お●んちんが】エイトさん女体化 7日目【生えてこない】
エイトさん妊娠疑惑と、ククールさん乳を吸うの巻。

リクエスト、ありがとうございました!