3 on 3 ・4


 もちろん、エイトたちが策を練っている間、対するククールたちのチームも対策を練っている。縛られることなく自由に戦うスタイルのユーリに、レッシンには想像もできないような策を思いつくリウ、そもそも頭の中身自体が異次元なエイトと、相手はかなり捕えにくいメンバだ。

「オレには聞くなよ、上手く説明できる自信はねぇから」

 きっぱりとそう言いきったレッシンに軽くため息をつきながら、「始めから期待しちゃいねぇよ」とその頭をククールが小突く。

「でもほら、どんな術を使えるとか、それくらいは分かるだろう?」

 せめてそのあたりの情報は欲しい、と求めるフレンへ、「あー、そうだな」とレッシンは斜め上を見上げて考えこんだ。

「確か、最近は基本補助に回ってた、気がする。ただ、トドメっつーか、万が一の時のために必ず大技を使えるようにはしてるから、かなりキッツイ術がくる可能性もある。ビビリでヘタレだから前に出て戦うタイプじゃねぇし、すぐ倒れる。でもすっげぇ頭が良いから、タイミングは外さない」

 これくらいしか分からない、と言うレッシンへ、「上出来」とククールが笑う。

「エイトは仕様が残念なのは普段だけだと思ってくれ。戦闘になると頭のスイッチが切り替わる。あれで一つのパーティを纏めるリーダだからな。前衛にも回れるし、回復サポートもできる。隙はほぼねぇな。ほんと、あるとしたら、オレらを相手にしてるっていう事実に頭のねじが緩むのを待つくらいだ」

 長く彼とパーティを組んでいるためある程度動きは読めるが、それはエイトも同じだろう。ククールの説明に、「僕とユーリも同じような感じかな」とフレンが口を開いた。

「物心つく前から一緒にいるし、剣も一緒に練習したから、太刀筋も動きも分かるけど、ユーリにも読まれてると思う。彼はそのまま前衛で戦うタイプで、あまり引いたりはしないから突くとすればそこかな」

 周りを見ていないわけではないがかなり戦闘好きの面があるため、目の前の敵が強ければ強いほどそちらに夢中になってしまうのだ。

「やっぱり厄介なのはリウか」
「オレもそう思う。あいつ、ホントすげぇ頭良いからさ、確実にこっちの裏の裏を読んだ上で更に二、三歩先を打ってくるぞ」

 呟いたククールに腕を組んでレッシンも頷きを返す。

「ぶっちゃけ、オレはリウとまともにやり合いたくはねぇ」

 もちろんもし仮に本気で戦うことになれば全力で相手はするし、勝つつもりで行くが、彼の戦術知識を間近で見ているだけに相対した時に底しれない恐怖を覚える。

「あと、戦ってるときのリウ、すげぇエロいから、勃ちそう」

 表情を変えず至極真面目な顔をしてきっぱりと言ってのけたレッシンに、「あはは」とフレンが渇いた笑いを漏らした。

「若いな、お前……」
「若ぇもん、オレ。だってほんとエロいんだって!」

 詠唱中や術を放っている際、リウはどこか陶然とした表情を浮かべるのだ。本人に自覚はないだろうが、その艶っぽさは言葉にできないほどで、直視したらその場で押し倒す自信がある。そんな自信を持つなよ、と呆れたようにククールは言うが、「ちょっと分からなくもない、かな」とフレンが口を開いた。

「ユーリは戦うのが好きだからね、本当に楽しそうなんだよ。もともと僕より体も柔らかいし、動きがしなやかだから」

 確かに、ネコ科の大型動物を思わせるしなやかさが彼にはありそうだ。そう同意しようとしたところで、「つかユーリはただ立っててもエロく見えるぞ」とレッシンが言った。

「否定はしねぇな。ありゃあ、色んなのひっかけてくるだろ」
「…………まあ、ね。ユーリ、綺麗だから」

 ククールの言葉にため息をついたフレンが答える。もともと所作自体が艶めいたところのある彼は、性格故自分の容姿を利用して人をからかっては楽しんでいる節もあった。

「あの顔で流し目とかされたら、耐性のない男は一発で落ちそうだな」
「落ちるよ、実際。何回も見たことある」
「そうか? オレは平気だけど」
「そりゃお前はリウ一筋だからだ。ほんとリウしか見てねぇな」

 きょとんとして首を傾げたレッシンへククールは苦笑を浮かべた。

「なんか、良いね、レッシン。すごい真っ直ぐで。見てて気持ちが良い」

 この少年のように真っ直ぐ愛することができるなら、さぞかし愛される方も幸せだろう。笑みを浮かべて言ったフレンへ、「どうだろうなぁ、オレいっつもリウ泣かせてばっかだし」とレッシンは返す。

「そんなに泣かせてんの、お前」
「基本ぼろっぼろに。泣いてるの見ると止まんなくなるんだよ」

 そういうの、ねぇの? と少年に尋ねられ、大人二人は顔を見合わせて口を噤む。
 ないわけでは、ない。というよりむしろある。身に覚えが、心当たりがありすぎる。

「エイトは普段が普段だからなぁ……。少しくらいは苛めてもバチは当たらないと思う」
「ユーリもね、怒らせるようなことする方が悪いんだよ」
「苛めてくれって顔に書いてあるんだよなぁ……」

 口々にそう呟き、一つため息。限りなく猥談に近い会話をしているせいで、ベッドの中で乱れる恋人(あるいはそれに近い存在)を思い出してしまい、何となく悶々とした気分になる。

「…………僕たち、ものすごい久しぶりに会ったんだよね。それなのにこんなところに飛ばされて戦うとか、どういうことだろう……」

 ユーリとのめくるめくいちゃラブな夜を邪魔され、フレンとしては不服でならない。

「そもそもこんなとこに飛んだもの、あの馬鹿が魔法を妙に発動させたせいなんだよな」

 これはまたお仕置きの一つや二つかましてもきっとバチは当たらない、絶対に当たらない。

「考えてたらリウ泣かせたくなってきた。さっさと終わらせて帰ろうぜ!」

 レッシンの言葉に金髪と銀髪の青年は揃って頷いた。





『さあ、やってまいりました決勝戦、ここまで勝ち残ってきた二チーム、栄えある優勝はどちらの手にっ!? ご紹介いたしましょう、力技で突っ切って向かうところ敵なし、この勢いのまま優勝を手にできるのか、チーム名無記名のお三方っ!』

「…………なんとかなんねぇのか、このアナウンス」
「はは、勢いがあっていいじゃないか」
「やっぱなんか、カッコイイ名前、考えりゃ良かったなぁ」

 マイクを片手にチームを紹介しているのは司会進行を務める男。案内や受付などは全て女性であったが、もしかしたらこの塔の中で唯一の男性スタッフなのかもしれない。当然のように頭にはウサ耳を揺らし、ひざ丈スカートのメイド服。繰り返すが、男性スタッフである。
 紹介放送と同時にフィールドへ続く扉が開き、三人はもう何度も足を踏み入れている闘技場へと姿を現した。さすが決勝戦となるとそれなりに観客も増えるらしい、中にはウサ耳を揺らして「ククール、こっち向いてー」だの「フレン様ー」だのと黄色い声援を送っているメイドもいるようだ。

「二人ともすげぇ人気者!」

 レッシンは笑いながら自分も向けられた声援に手を振っている。もともと三人とも他人から見られることに慣れているため、どれだけ騒がれようともあまり気にしない。とりあえずは正面から出てくるであろう恋人たちの姿を待っていたところで。

『対するは、ふざけているのは名前だけ、その戦闘は目をみはるばかり、まさに蝶のように舞って蜂のように刺す、チーム「らぶりーにゃんにゃん隊」のお三方!』

 マイクを通ったその言葉にレッシンは爆笑し、フレンは口を押さえて肩を震わせ、ククールは頭を抱えてため息をついた。

「……だからこのチーム名止めよう、って言ったじゃん!」
「なんでだよ! 可愛いじゃんか、にゃんこっ!」
「まあ、相手の戦意は確実に喪失してるからいいんじゃねぇの?」





 三対三のチーム戦、開始の合図とともに広がった光景はまさに阿鼻叫喚、というよりもむしろ意味不明、理解不能なものだった。
 始めは六人とも真面目に戦っていた、はずだ。エイトたちの読み通り、やはり相手チームはまずリウを狙ってきた。おそらくエイトとユーリ、二人ともがリウの援護に入るだろうと、それを想定していたはずだ。エイトたちもそのつもりではあったが、開始と同時にリウが、現在彼が使える中で最大の威力を誇る融解の光珠を放ってきたのだ。相手の三人に対してだけではなく、エイトやユーリも巻き込むほどの勢いで。

「バカ! お前、オレらまで巻き込むつもりか!」
「そのつもりはないよー、だって避けられるっしょ、これくらい」
「だったら先に言っとけよ! 危うくおてて、火傷するところだったじゃん!」
「敵を欺くにはまず味方から! さっき怖いこと言ってきたお返しー」

 この時点で既に双方の体制は完全に崩れてしまっている。実はリウの狙いはそこにもあった、始めから一筋縄ではいかない相手なら、一層のこと撹乱してしまった方が手っ取り早くまた隙も見つけやすいだろう、と。

「――ッ! レッシン、お前んとこの参謀、怖い! ひどい!」

 それに対しエイトが何故かレッシンへ文句を言い、「えーっとよく分かんねぇけど、ごめん」と素直に謝っている。そこから先はもう策などあってないようなもの、各々が状況に応じてフィールドを走り、武器を掲げ、術を放つ。

 その内何がどうしてそうなったのか。

 リウの泣き顔と嫌がっている顔がものすごくエロい、と力説するレッシンの言葉に、じゃあちょっと見てみよう、と何故か味方であるはずのユーリがリウへと攻撃の手を向ける。どうせならユーリのエロい顔も見たい、と呟いたククールへ、フレンの殺気が飛んだ。
 敵味方入り乱れ。一体誰と誰が同じチームなのか、誰と誰が戦っているのか、観戦しているものも分からないような状況で、さすがの実況もついていけていない。仕方なくフィールドの土を集めてエイトが作っていた城を、『よくできてますねー』と褒めていた。
 頭の仕様が多少残念な近衛兵、五戦以上も戦闘を繰り返し、最後の最後でどうやら飽きたらしい。
 てくてくと歩いて実況席の近くまで行くと、顔を覗けてくれたウサ耳メイドへ何やらこしょこしょと耳打ちをする。しばらくして彼女が持ってきたものは、バケツ一杯の水とゾウのジョウロ。フィールドの土は乾きすぎていて、城が作りにくかった模様。
 手渡されたそれをほくほくと持ち帰り、そうして土を湿らせては砂の城作りに精を出す。その間も、今度はユーリにターゲットを移しての敵味方入り乱れた大乱戦が続けられていた。

「だぁあっしつけぇっ! そんなにオレのエロ顔が見てぇか? 何なら今ここで全裸になってやんぞっ!」
「お、いいぞ、やれやれ、脱げー!」
「全裸はまずいって!」

 ユーリの怒声にレッシンが面白がって煽り、リウが慌てて止めに入る。

「オレのビッグマグナム見て泣くなよ?」
「お、何だ、ユーリのでけぇのか?」
「小さくはねぇがな、オレよりフレンのがでかい」

 きっぱりと言い切るユーリに、顔を青くするべきなのか赤らめるべきなのか、「ちょっ、ユーリ、なんの話っ!?」とフレンが慌てて口を開いた。
 マジかそれは見てみたい、とククールとレッシンの視線が今度は味方であるはずのフレンへ向く。

「ちょっと比べようぜっ!」
「ぎゃーっ! レッシン、ここで脱ごうとしないで! お願いぃぃっ!」
「男としてそこはやっぱ負けらんねぇよなぁ。ユーリ、詳しく話聞かせろよ」
「いいぜ、その代わりククールも話せよ、事細かに細部まできっちり」
「ああもう、ユーリ! なんで君はそう……っ、って、レッシン! 脱がない、僕は脱がないからっ!」

 阿鼻叫喚、と表現しておそらく間違いではない、はずだ。
 様々な叫び声が行き交う中、当然のようにそれぞれ武器を振り回しているわけで、レッシンを止めようとしたリウの砂嵐とそれを避けて繰り出されたレッシンの会心の一撃、フレンを退けようとするククールのバギクロスと、ククールを狙ったユーリの蒼破刃、ユーリに対して繰り出されたフレンの虎牙破斬。微妙に相手を捕え損ね、また絶妙なタイミングで避けられ、自身も回避し、会話と敵味方を無視しているという致命的な欠点に目を潰れば、非常に素晴らしい戦闘が繰り広げられてはいるのだが、相手を捕え損ねたそれぞれの技がどうなるか、といえば。

「げ」
「あ」
「……あちゃぁ」
「あーらら」
「す、すまない」

 空振りした術技の余波がフィールド全体を揺らし、それは当然のように、エイトが懇切丁寧に鼻歌交じりに作っていた砂の城へも直撃し。

『あーっと、ここで崩壊! 完、全、崩、壊っ! 跡形もありませんっ!』

「――――ッ! 実況、うっせぇっ!」

 エイトの八つ当たりが司会進行役のウサ耳メイド(男)へ飛んだ。
 しかしすぐに怒りの矛先を原因たちへと向ける。


「お前らなぁっ! ちん×のでかさなんてどうでもいいだろうがっ! そこ直れ、俺が直々に成敗してやるっ!」
 涙目のままエイトが槍を水平に構えて怒鳴った。

「ばっか、お前、ここは男として引けねぇとこだろうが!」
 両手に持った刀を顔の前でクロスさせて身体を落とすレッシン。

「そうそう、ナニのでかさと腰の強さで男の価値が決まんだぜ?」
 笑いながらユーリもまた刀を握る左手に力を込める。

「そんなことはどうでもいいから、さっさと脱げよ、フレン」
 発動させた風の魔法に銀髪を舞わせるククール。

「嫌だよ、君こそ脱いだら? 人に見せられる立派なものだったらね」
 眉を顰めて挑発するようにそう言い、フレンはカシャン、と剣の鍔を鳴らす。

「もーやだっ! なんで公衆の面前で猥談してんの、オレらっ!」
 そんな彼らを前に、耐えかねたリウが癇癪を起して魔力を高めた。


 六人がそれぞれに放った威力の高い術技。誰を狙っているというわけでもない、強いて言うならば自分以外全員が倒れたらいいと思っていた。
 どうせ願いは皆同じ、要は一人が残ればいいわけだ。
 しかし、塔までも破壊する勢いで術技を放ち、観客も司会者もウサ耳メイドも皆が逃げ出した中、結局誰が願いを叶えるのか、またそれに至る道を示してくれるのか、というところまでは彼らも考えていなかった。
 エイトが作った砂の城のように完全崩壊したフィールドと、壊れかけた塔、人っこ一人残っていない状態。どうするよ、と六人が顔を見合わせたところで、この世界へやってきたときと同じように突然身体が飛ばされる。気がつけば、妙な森に飛ばされる前にいたそれぞれの場所に戻されていた。
 ろくに別れの挨拶もできないままだったが、きっと彼らは気にしないだろう。

 願い事を口にしたわけでもないのに、そもそも優勝チームも決まっていない状態なのにどうして戻って来れたのか、レッシンはしきりに首を傾げていたが、おそらく、とリウは思う。
 あの世界の神様だか誰だか、とにかくリウたち六人をあの世界に呼び寄せた誰かが、もう二度と来てくれるな、とそれぞれの世界に送り返したのだろう。
 きっとそうに違いない。




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2010.11.02
















【巨コン】いいから、戦え。【粗チン】
収拾が、つかない!

リクエスト、ありがとうございました!