3 on 3 ・3 「次の日全然起きられないし、だるくなるから止めてって言うんだけど」 止めて、と言えば言うほど盛り上がる彼の性格はなんとかならないだろうか、とリウは疲れたようにそう話す。しかも翌日レッシンを詰ったとしても、途中からは止めてと言わなくなるから止めなかった、とあっけらかんと言い放つのだ。 「二回目くらいまでは意識があってもそれ以上はさすがに朦朧としちゃって……」 その間の言動に責任など取れるはずがない。エイトもユーリもそういう経験があるのだろうか、分かる分かると頷いて同意を示した。 「あれは何なんだろうなぁ、本気でもう駄目、無理っつってんのに、全然止めねぇの。たまにあいつの耳、おかしいんじゃねぇかって思う」 あと俺を相手にしてる時点であいつの頭もおかしいと思う、とエイトは真面目な顔をしてそんなことを口にする。 「そりゃ趣味嗜好は人それぞれだしな。ククールなら他にも女いっぱいひっかけられるだろうに、それでもエイトが良いってんだから察してやれよ」 何となく、二人の間には通常の恋人関係というものが成立していないように思い、ユーリはそう口にするだけで留めておいた。エイトもまた、「ククールもおんなじようなこと言ってた」と頷いて答える。 「あと基本的に生物の雄ってのは、相手を征服することに喜びを見出すとこがあるからな。抵抗されればより燃えるってのは仕方ねぇんじゃねぇの?」 夜ベッドの中で、今まさに組み敷いている相手が、「もう止めて」と顔を歪めて泣いている。興奮するな、という方が無理な話だろう、とユーリは思う。 「でもだからって『もっと』とか『止めないで』って言っても無駄なんだよな」 それが解せん、と本気で不思議そうな顔をするエイトの頭を、「当たり前だろうが、バカ」とユーリが拳で小突いた。 「もっとって言ってもだめ、やめてって言ってもだめ。じゃあオレは一体どーすればいーんですか……」 両手で顔を覆って泣き真似をするリウの肩を、ぽん、とエイトが叩いた。 もちろん、本気で嫌がれば相手が引くことなど二人とも理解している。それでも押し切られるということはつまり、自分もまた本当に嫌だとは思っておらず相手を受け入れているということで、それが分かるからこそ逆に辛い。 「朝とかすげぇ気まずいよな……。どんな顔すればいいのか分かんねぇときあるし」 「あー、分かる。『昨日のオレ、なにしてくれちゃってんのぉおおっ!』みたいなね……」 声のトーンを落としてそんなことを言う少年二人を見やり、ユーリはくつくつと楽しそうに笑っていた。 「なんかほんと、新鮮だ。オレ、あんまりそういう経験ねぇしさ」 もちろん行為が行為だけに羞恥心というものはあるし、もう勘弁してくれと思うことだってある。しかし結局は相手を求める心に負けてしまうわけで、「がっついてんなぁ、オレも」とユーリは苦笑を浮かべた。 「ヤった直後でも結構普通の会話してるしなぁ、オレら」 明日も一緒にいられるならご飯をどうしようかだとか、何時に起きようかだとか、ラピードを風呂に入れたいだとか。 「ガキの頃から一緒にいたから、その辺マヒしちまってんのかもな」 「なんか、熟年の夫婦みたいだね、ユーリさんとフレンさんって」 リウの言葉に、「近いかもな」とユーリは笑った。もしそういう境遇でなければ、少年たちを悩ます羞恥の心、気まずさや気恥ずかしさをユーリも味わえたのかもしれない。それはそれで少し残念だ、と思わなくもない。 「じゃあさ、逆に聞くけど、ユーリがほんとに嫌だとか、マジ勘弁とか思った事ってねぇの?」 もちろんベッドの上でのことだろう。エイトの質問に、んー、とユーリは首を傾げて斜め上を見上げる。 「…………監禁に近い軟禁?」 「それ犯罪!」 「レベルが違ぇ!」 フレンすげぇ! と二人の声が揃った。 「いやまあ、ありゃあオレも悪かったしな。さすがに殺されるかと思ったけど」 「……フレンさんの愛が怖い」 「すげぇなぁ……俺、絶対フレンは怒らせないようにしよう……」 何やら二人の中でフレンの姿が妙な捕らわれ方をしてしまったようだが、面倒くさいのでフォローも訂正もしないでおいた。どうせ自分のことではないし、ユーリは事実しか口にしていない。 「さっきも言ったけど、レッシンも似たようなタイプだろ? ありゃあ相当独占欲が激しいと見た」 ぴん、とリウの額をバンダナの上から弾きユーリがそう口にする。額を抑えて顔を赤くしたリウは、「かもしれない、です」と俯いて答えた。 「腹を出すなとか、やっぱり着こむなだとか、ほんともう、どうしたらいいのか……」 きりがないので適当に聞き流してはいるが、線刻を宿した直後くらいには他人に触らせるなと酷く不機嫌になっていた。 「もともとオレの一族、こういう服着るのが普通で、オレもどうしてもそういうの選んじゃうだけなのに」 肌に線刻を宿すことを普通とし、またそれを見せるような服装がごく一般的だ。どれほど厭うていたところでやはり生まれ育った場所はそこ以外になく、身についた習慣や好みは抜けることがない。今はようやく「一族って?」と尋ねてきたエイトへ、「正確にはオレ、人間とは違うんだよ」と返せる程度には己の出自を受け止められるようにはなっている。 「スクライブっていう一族で、人間とはちょっと違うんだ」 「へぇ、そうなんだ。俺も半分人間じゃねぇから、やった、人外仲間!」 その喜び方は違うと思うしどうかと思う。リウとユーリは同時に思ったが、竜神族という一族とのハーフだという彼には伝わらないだろうと賢明にも口を噤んでおいた。 日々魔物と戦い腕を磨いてきている三人に、他のチームが敵わないのも至極当然のことなのかもしれない。ひたすら前衛で攻撃をメインに据えるユーリに、基本は攻撃をしながら状況を見て回復に回るエイト、二人を伺いながら的確にサポートをし、時折魔法で相手を蹴散らすリウ。何戦か重ねるうちにそれぞれの役目を自然と把握し、難なく決勝まで駒を進める。もちろん、もう一方の彼らの相方のチームも危なげなく勝ち進んでいるようだ。 「で、だ。やるからにはきっちり勝ちてぇわけだけど」 準決勝戦を勝ち終えたユーリが、肩にぽん、と剣を乗せてそう口にする。もちろん、決勝で相手にする彼らについて考えているのだろう。 「今までのようにはいかないだろうなぁ」 何せレッシンたちだし、とリウも眉を寄せている。 「あいつらの戦いを見れないってのも痛いよな。まあこっちの手も見られてねぇからおあいこだけど」 基本的に参加者は他チームの戦闘を見ることができない。観客はいるが、彼らはまったくトーナメントに参加しない人たちか、あるいは既に負けてしまっているものたちだ。エイトの言葉に「まあ情報はないわけじゃねーから」とリウが口にする。 「エイト、ククールさんってやっぱり補助メインだよね?」 組み分けをする際そう判断し、否定は返って来なかったため当たっているのだろうとは思うが、念のため確認するとこくり、とエイトは頷いた。 「剣も使うけどな、あいつ一応僧侶だから」 「僧侶、ってあれか、神様に祈る……そりゃまたずいぶん派手な僧侶もいたもんだな」 「酒飲む嘘つく博打する、世の中の僧侶に謝り倒すべきだと俺は思うね」 ただ残念ながら、僧侶としての能力はずば抜けて高いのだ。回復魔法も補助魔法も、普段の戦闘でかなり彼に頼っている事実は否めない。 「ただその分力は弱いし、打たれ弱い」 「あはは、オレと一緒だ。じゃあ、フレンさんとレッシンがククールさんの守りに回る可能性が高いな」 三人の中で一番守備力がないのは言わずもがなリウであり、エイトもユーリも、戦闘中は少年を守るように動いていた。当然向こうのチームも同じように動くだろう。 「フレンの守りを掻い潜るとなるとそりゃ相当きっついぞ。あいつ、騎士だし、オレと違って基本に沿った戦い方だから守備は完璧に近い」 ユーリはどちらかと言えば遊撃的な戦い方をするタイプである。同じ剣を使うものであっても、戦い方には個々の性格が強く出るのだ。 「あと、ぶっちゃけオレの動きはフレンには読まれてると思った方が良い。逆にフレンの動きも大体分かるけどな」 「あ、それ俺も。ククール無駄に頭がいいから、大抵二、三先を読んで動く。多分俺がどうするかとか、何となく分かられてる気がする」 「だとしたら、理詰めで崩せるのはやっぱりレッシンか……」 ただあの団長は本能で戦っている部分が大きく、その上戦闘センスが半端なく高い。本人まったく何も考えずに動いているらしいが、状況を読んでその場に応じた戦い方を自然にできるタイプである。 「だからレッシンが状況を把握する前に叩くのが一番効果的。たぶんアイツ、オレが今どんな術が使えるかは把握してねーから」 そして彼の場合、的確にリウの情報を他の仲間へ伝えることも難しいだろう。 「つーことは、初っ端確実にリウを狙ってくるな、あいつら」 術がメインであることは先に伝えてあるため、尚更一番始めにつぶそうとしてくる可能性が高い。分からないものを先に排除するのもまた戦闘の鉄則だ。 「だな。下手したら全員でリウを襲うかもしれない」 「ちょっ、止めて!? 怖いこと言うの、止めてっ!」 同時に攻撃を仕掛けられることを想像したのか、リウは涙目になって叫ぶ。三人とか無理だよ、と泣くリウへ、「もしかしたら四人とか五人かも」とにやにやと笑ってエイトが言った。 「何で増えてんの? 誰だよ、増えたの!」 「俺とユーリ」 「お前ら味方じゃねーのかよっ!」 ←2へ・4へ→ ↑トップへ 2010.11.02
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