見開いた義眼で正面にいる男を見つめた。
 彼を覆う色は、銀に近い水色のオーラ。光のあたり具合によってところどころ光っているようにも見える。けれど、常にきらきらと輝いているわけではなく、静謐に、けれどしっとりと力強い色。
 この色をレオナルドは知っている。
 ずっと近くにあった色。いや今でも近くにあるはずの色。
 この色のそばにいれば自分は大丈夫なのだ、と。心身共に安堵していられるのだ、と頼りない記憶の奥底から本能が叫んでいる。その声に心臓を揺さぶられ、はっ、と息を吐き出したレオナルドはようやく己が我を失いかけていたことに気がついた。ざ、と血の気が引き、へなへなとその場にしゃがみこむ。

「レオナルド!?」

 驚いたスティーブンが駆け寄ってきた。どうかしたか、気分でも悪いのか、しゃがみ込んで尋ねてくる男の腕へ、そっと手のひらを寄せる。かたかたと小さく震えていることに気がついたのだろうか、スティーブンはレオナルドが触れても嫌そうな顔はしなかった。それどころか、宥めるかのようにぽんぽん、と手を軽く叩かれる。
 すみません、と小さく謝罪し、座ったまま何度か深く呼吸を繰り返した。大丈夫、大丈夫ではないけれども大丈夫、自分はひとりではない、冷たそうでいて温かなひとがそばにいるのだから。

「こっち側、ヤバい気がします。こう、近づくだけでSAN値がごりごり削られていくような」
「SAN値?」
「あー、いわゆる正気度、ですね。ゲーム用語なんっすけど」
「……それは不安感に苛まれるとか、絶対的な恐怖を覚えるとか、そういう意味で?」
「まあそれもあるとは思いますけど」

 やけに具体的な言葉として尋ねてくる彼もまた、おそらくレオナルドと似たような精神状態ではあったのだろう。もともとの心の強さが違ったため、レオナルドのように立ち止まるまではいかなかっただけのこと。
 なるほどね、と頷いたスティーブンの手を借りて立ち上がる。なんとか足腰にちからも戻ってきているため、動くことはできそうだ。


「それじゃあこっち側はこれ以上行くのはやめて、向こうに行ってみるか」





2019.04.01
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