勝敗はいずれこの手の中。」の続きっぽく。



   言い訳だらけの馬鹿ップルに溜息。


(TOV:フレユリ)


 「信じられません!」と、柔らかな髪の毛を揺らして桃色の皇女が声を荒げた。

「あのでも、エステリーゼさま、」

 と紡がれかけた呼びかけを、「言い訳は必要ありません!」と彼女はきっぱりと切って捨てた。普段柔らかな雰囲気を纏わせている彼女だって怒るときは怒る。それも大の男ふたりを自分の前に正座させて怒る。彼女が怒りを向ける矛先、片方はぴしりと背筋を伸ばし姿勢を正して座っているが、片方はどうでも良さそうに自分の髪を弄りながらそっぽを向いていた。

「ユーリ! ちゃんと聞いてますか!?」

 眉をつり上げて怒鳴られても男は「へーへー聞いてますよー」とやる気のない声を返すだけ。そんな彼の態度に少女の怒りが更に膨れ上がるのも仕方がないだろう。

「私、本気で怒ってるんですよ!?」

 その理由はユーリとフレンが休憩の合間に剣を交えていたことにある。食後の運動、戦闘訓練、ストレス解消。いろいろな意味合いが込められたそれは、ふたりにとってはただの遊びでしかなかった。けれど傍から見ればかなり真剣に戦っていたように見えたらしく、「心臓が止まるかと思いました」と皇女にかなりの剣幕で怒られてしまったのだ。

「……まあマジだったのは違いねぇしな」

 遊びとはいえ互いに真剣を構えて行ったこと。一歩間違えれば大怪我をしていただろうが、ふたりともそんなことは承知の上で、だからこそ本気で刃を交えていたのだ。

「僕たちは昔からふたりでこうして訓練してきましたし、互いの呼吸もそれなりに理解してますから」

 だから彼女が心配するような事故は起こりえないのだ、とフレンは説明するが、エステリーゼは納得する様子を見せない。柔らかな桃色の髪の毛を揺らして首を振ると、「だってふたりはお友達でしょう?」としょげた顔をする。

「お友達同士で戦うなんて悲しすぎます」

 だから危険なことは止めてください、という他人との関わりが少なかったお姫様の言葉に、「こいつらのあれはただのじゃれ合いでしょ」と後ろから魔術師が呆れたように口を挟んできた。

「そうそう、拳で語るっていうの? 男同士の友情って感じだよね!」

 リタの言葉にカロルがそう乗ってきたが、話題とされているふたりは正直そんな綺麗なものとは無縁で身の置き所がない。もぞもぞと居心地悪く顔をしかめていれば、「だからお嬢ちゃん、言ってるでしょ」とレイヴンまでもが面白がって口を出してくる始末。

「ユーリちゃんたちのは犬も食わないものだって」

 夫婦とまではいかないが、彼らが親密な関係であることは皆が知るところだ。

「ほら、男同士だし、デートする代わりみたいなものなんじゃないの?」

 他人事だと思って好き勝手なことを言ってくれるものだ。くしゃりと顔を歪めてそんな不満を表すユーリに、あはは、と苦笑を浮かべるフレン。

「まあ僕たちはデートとか、したことないですからね」

 あまりに小さな頃から一緒に居たため、そういった恋人らしいことはしたことがないような気がする。そんなフレンの言葉にエステリーゼはもう一度「信じられません!」と叫び声をあげた。

「恋人なのにデートもしたことがないなんて!」

 ふたりともどんな神経をしているんですか、と嘆かれても困る。

「いやだからエステル、」

 そもそも男同士でデートをするのも気持ちが悪いと思う、と言いたかったのだが、「言い訳は必要ありません!」と同じセリフで遮られてしまった。世間知らずのお姫様は「だからなんですね」とひとり頷いてため息をついている。

「まともにデートもしたことがないから、だからあんなことをしてるんですね」

 だったらデートしてきてください、と。
 続けられた言葉を耳にし、下町で育った幼馴染ふたりはぽかん、とエステリーゼを見上げるしかできない。ええとどういう意味だろう、とよく似た表情で顔を見合わせる彼らに気づかず、「それがいいです、ぜひそうしましょう!」とエステリーゼは自分の提案に手を叩いて興奮していた。

「あ、いや、ちょっ、エステル、待て、いろいろ待て、なんかおかしいだろそれ」

 慌てて制止の言葉を口にするが、暴走お姫様は止まらない。「あら面白そうねそれ」「そーゆーことならおっさんもちょっと協力しちゃおーかなー」とジュディス、レイヴンまでが加わってしまい、助けを求めるようにカロルへ視線を向けてみるが少年はいい笑顔で「頑張れ!」と親指を立てただけだった。




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2012.05.11
















続・エステル最強説。

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